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次の獲物は「独身教師」であった。
うら若き14歳には24歳の男性教師というのは堪らない存在である。
当然人気も高い。
学年も担任でもない私にはてかがりは「数学の授業」のみの接触であった。
そもそも私は成績的にはそんなに落ちこぼれではなかったがここで「手のかかる生徒」になる以外チャンスは殆どないといっても過言ではない。
私は「数学が出来ない子」になる戦法を取った。
そうすると授業の度に質問する機会が増えるからだ。とにかく接触あるのみ!存在を覚えてもらわなければ何の意味も発展性もないのだ。
会える時間も週三回の数学の時間のみ!この貴重なチャンスを逃す訳にはいかない。
先生は女子生徒からはとても人気があったので授業終わりなんてのは女子がむらがりちやほやタイム。
でも私は先生としてのおもたる仕事「数学が分からない生徒を無下にする事は出来ない。
初めの頃は勿論先生もただの落ちこぼれとしか見ていなかっただろう。何人もの生徒を集めて集団授業をする形になっていた。
だだとってもアホな態度を取り続け、それでもあざとく、嫌われない程度に距離を詰める。
しかしそのままだと単なる出来損ないのあまりに参加しているだけ、の状態である。更に私自身の存在をアピールする為に私は【数学の質問】という盾を持って、先生がいつもいる「数学準備室」に行く事にした。
基本的に数学準備室にはその先生しかいる事は殆どなく、他の数学の先生は職員室にいるものリサーチ済みである。
先生の時間のある時を狙って数学準備室に行く。初めは驚いていたものの「補習授業の一員」としては印象は残っていたので、基本質問には答えてくれた。
ただ、それが頻繁にもなると流石に
「まったお前かぁ、、、困った奴だなぁ、、」と苦笑気味に応える。
「だって!何度やってもわかんないんでさもんっ!先生のおしえかたが悪いっ!」
と軽口を叩く位の関係になって行く。
日が経つにつれ、数学の質問よりも日々の生活の雑談をする時間が増えて行った。
私も特に質問がなくても数学準備室に出入りする様になった。
こういう時間はとても信頼関係を作るのに非常に大事な工程である。この時間があったからこそ「教師と生徒」というリスクをお互いがきちんと回避し徹底する事によって親密度は更に上がる。私は先生の害悪になる事は一切しませんよ。という安心感を植え付けるのが大事だ。
それからはあまり日の経たないうちに、時間差で学校を出て、学校から少し離れた所で先生を待つ。暫くすると先生のスポーツカーが私を乗せる。
「少しドライブしようか?」
最近の習慣になりつつある。
「ね、先生、私先生にマフラー作ったんだ、貰ってくれる?」
「うーん、でも学校で渡すのは難しいね。あ!そうか、この車の中なら大丈夫かっ!」
少し子供臭くはしゃいだ調子で言ってみる。相手は大人だ、隣に女子中学生を載せているという時点で求めている物はこーゆーものなのだ。下手な大人の芝居はいらない。
「ねぇー、先生、私先生の家見てみたいな。」明らかに無邪気に。
しかし流石にリスク回避の大人。少し困った風に
「家かぁ、、生徒は上げた事ないんだよね、、」
「見るだけっ!五分で帰るからっ!ねっ!私だって先生の都合解ってるし。」
粘る私。
生徒を入れた事がない先生の部屋に入るというのはある意味、生徒の中では特別枠だ!
「わかったよ。誰にもばれない様にね。」
「分かってる。そんな事になったら先生も私も困るもの。やった!嬉しい!」
とはいえ大人の男の部屋に上がるのは私にとっても人生で初めて。もし、突然肉体関係を迫られたら?という不安要素は多少あったものの、あんなにリスクを怖がってる彼がまず手を出す事は考えにくかった。
万が一そうなった場合はその時考える。
踏み留まっていてはなんにも始まらないのだ。
そんな葛藤を抱きつつ先生の自宅へ。
チャイムを鳴らすと滑り込ませる様に私を中に入れる。確かに玄関で立ち話はリスクが伴う。
思っていた通り、先生は私に手をつける事はなかった。
しかし少なくともこの時点で私の中には何かが「勝った!」と思えたのだ。
週三回しかない数学の授業中、プリントを配る振りをして先生は私に特別メッセージを送ってくる様になった。
短いメモ書き。
「昨日はありがとう。」
「今日いつものとこで。」
読んだ瞬間、先生を見て目で会話し、メモは丸めてスカートの中に入れた。
でも実は私の中ではだいぶ飽き初めていた。
元々【この大物を釣ったらどうなるんだろう?】という興味本位から始まっているという事もあって、本気で恋愛したいとか、いつかは結婚をとかそんな馬鹿馬鹿しく現実味のない事を考えた事は一度もない。
だから学年が上がり数学の担当教師が他の人に変わった時点で先生とはだいぶ疎遠になった。
その頃先生婚約者が出来たという話を聞いたが、次の獲物の準備をしていた私には「へぇー。」位の感想しか出て来なかった。
それから数年経った頃、たまたま入ったスーパーで多分結婚したであろう先生の姿を見つけた。
先生も私に気がついた様で、目で挨拶をする。私は生活感の滲み出ているその教師に「一体この人の何が好きだったんだろう?」と思わずにはいられない程魅力を感じなかった。
若気の至りというか大人の男性への憧れとでもいうのか?
確かにドキドキ感と大人の魅力には惹かれたけど、釣ってリリースしてしまえばただの思い出で未練は全くなかった。
「さよなら、先生。お幸せに。」
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