10人が本棚に入れています
本棚に追加
獲物のは手に入りづらい程燃えるものである。
しかし長期戦だし潮を読むのも仕掛けを作るのも釣り上げるのも難易度は高まる。
私だってそんなに馬鹿ではない。
普通の魚を釣る釣竿で鮪を釣る事が出来ない事位分かっている。
欲しくても手に届かないというのは存在するのだ。
鮪を釣る為には船がいるし専用の竿や機械だって技術だっている。それが準備出来なければ諦めるしかない。
例えばアイドルを好きになったとしよう。ではその意中のアイドルを手中に入れるには???奇跡に近い確率と報われる事が殆どない努力をしなければならない。
分相応、これは結構大事な事である。
好きになるのは自由だが手に入れる為には自分も相手の土俵に上がれる倉井の立場でないとならないのだ。
有難い事に渡しは超現実的なのでテレビの中の人を好きになる事はない。確実に仕留められる獲物のにしか興味がないという事だ。
身体が大人になるにつれ「リアルで抱き締められない人には身体も反応しない」という子とに気がついていく。
私はポスターに向かって報われないキスをする程素敵には出来ていない。
中学、高校、大学と、それなりに私は釣りを楽しんだ。
けれどその度葛藤が産まれる様になってきた。
【釣った魚に餌はやらない】でお馴染み、私は釣り上げるのは得意だが、その釣り上げた獲物との恋愛が上手く出来ない、というか急に興味がなくなるのだ。
これは流石に自分でも解決策がなく少し悩んだ。
別に冷たくして捨てる、という訳ではないんだが、付き合っているうちに私の悪い癖である【次なる獲物】に惹かれてしまうのだ。
冷たくしていない分釣られた彼等は皆私に優しかった。だから本格的に次の獲物がかかった時、こちら側から別れを切り出す。という見た目は円満別れを繰り返す。
しかし流石にそろそろまともに恋愛がしたいと思う。大学卒業まで行くと、結婚までのリミットはそう長くはない。
この【恋愛フィッシング】において私は殆どの成功率を上げていると書いたが、勿論成功出来なかった場合もある。次の話は成功か否か?は置いておいて、きちんと相手を把握出来なかった場合の失敗例をあげるとする。
その彼に会ったのはバイト仲間のおばちゃんの紹介だ。
自分の息子と一度でいいから見合いをして欲しいというものだった。
私は当然フリーではなかったにせよ、興味があったので見合いをした。
一回り位の歳上の優しそうな男性だった。
一瞬で「あ、落とせそう」のスイッチが入った。容姿は子のみではなかったが、彼にとっては彼女という存在が初めてだった様で、私の願う事を何でも叶えてくれた。
ただ同棲するにあたって今の住居か新天地へ車で4時間かかる所だった。
でも当時好きだったスキーやゴルフの年パスや道具一式をぽんっと用意されると、それはそれで嫌な気持ちではない。
彼は速攻で私にメロメロになった。
一番大きかったのは彼が女性と肉体関係を盛った事がなく、それを私が開花させてしまったからである。
これは誤算。流石に一回りも上ならそれなりに経験を積んでいると思っていた。
彼は狂った様に性欲魔神に変貌していく。初めての場合、制御の仕方も分からないみたいで手のつけようがない。
でも流石にそこまで前もって情報収集するのは難しすぎた。
だからこんなに手に入りやすく未だに独身だったのか、、安物には必ず理由がある事。
簡単に釣れる獲物程かなりしょーもない事、、、万事休すである。
歯止めの効かなくなった彼は、強引に求めてくる。
何とか落ち着かせる。
謝罪を受ける。
五分も経たず豹変。また求めてくる。今度は脅しを含めて。
典型的なDV彼氏である。
忘れもしない12月31日。引っ越し業者はどこも休み。命の危険を感じた私は公衆電話から片っ端に今日今から引っ越しさせてくれる業者に電話した。
すると個人業者のおじさんが引き受けてくれた。
「いくらかかっても構いません、荷物とともに私も一緒に運んでくれませんか?」と半泣きになりながらお願いするとおじさんは助手席を勧めてくれた。
除夜の鐘が鳴る中、私は軽トラに乗って逃げ帰った。
ある意味本当に殺されるんじゃないかと思う出来事だった。
ただ彼が追いかけてこれない様、私は私の個人情報は一切教えていなかったのが幸いし、逃げ帰ってからは一切顔を見る事はなくなった。
この教訓から学んだ事は「安い物には食いつくな」という事である。
情報不足はほんといつ何があるか分からないという事も痛感した。
「釣りには成功したが獲物は猛毒を隠し持っていたやつだった。」という所か、、、、
最初のコメントを投稿しよう!