ゲームスタート

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お風呂上がりのバニラアイスは五臓六腑に染み渡る。 口の中で広がるミルクの風味は食べすぎた唐揚げのギトギトの油を相殺するように胸焼けを抑える。 パジャマに着替えると 吸い込まれたかのようにゲームを起動させていた。 レベル75  新しいダンジョンも呪文もないまま ただ敵を倒すだけ レベルが上がるたびにノイズが上がりBGMの音でさえかき消されていく。 目を見開き 充血をしてもコントローラーを離そうとはしない。 新しいダンジョンの登場を待ち続けてひたすら戦い続けた。 レベル99 普通のゲームでは完ストと言われ、これ以上レベルは上がらないのが常識 しかしラスボスの登場は無い。 ギィー ギィー ギィー ギギギィー もはやノイズがBGMの代わりを担っていた。 終わらない旅 グルグルと交錯したステージ 友樹はおかしい こんなクソゲーが面白いだなんて あり得ない 絶対にあり得ない 時間を返せ 俺の大切な時間を返してくれ! コントローラーをカセットに向かって投げつける。 テレビの画面が切り替わり、やがて電源が落ちる。 6月17日 午前五時四七分  カーテンを開けると 直射日光が目に当たり 眩しさでベッドに倒れ込んだ。 「おい オマエ 俺のオススメしたゲームがつまらないって言ったのか? 俺のセンスが悪いってことなのか? どうなのか言ってみろよ。」 鉄のような棒を持って襲いかかる友樹 丸腰の俺はその場で立ち竦んでいた。 逃げる? 友樹は陸上部で追いつかれるのは目に見えている。 パワーが漲る。 呪文が使える? そんなことはないはず。 ダメ元で叫ぶ。 「タイローク!」 手から灼熱の火の玉が湧き出ると、友樹に向かって放たれた。  友樹は火だるまになって 辺りをダンスをするように動き回る。 やがて炎が消えると 友樹は…… 「はっ? 何だ夢か」 肝心なところで目が覚める。 また寝ようとしてもこの続きのストーリーは自分の意志では作れない。 九時三十分  四時間の睡眠すらも取れていない。 ゲーム起動 レベル75 あまりのイラつきでセーブを忘れていた。 がむしゃらにレベルを上げ続け99に戻す。 「たっちゃん ご飯よ ご飯! たっちゃん たっちゃん聞こえてるの?」 セーブを終えて 急いで階段を駆け下りる。 「ごめんごめん 寝てた。」 「夜遅くまでゲームやってたからでしょ。 ほら 寝起きにはキツイかもしれないけどカルボナーラを作ったわよ。 チーズもたっぷりと入れたからね。」 手作りカルボナーラ  名店に引けも劣らない見た目 クリームの中にチーズのほのかな香りと厚切りベーコンの香りが食欲をそそる。 「いただきます。 ってお母さん なんか胡椒とか入れてない? なんかベーコンが辛いんだけど」 「胡椒なんて入れてないわよ。 どれどれ  うーん美味しいわよ 自分で言うのもおかしいけど。 どうしたのたっちゃん味覚おかしくなったんじゃない?」 厚切りベーコンは嫌がらせをされたかのように胡椒が入ってたはず。 なのに母はそれを容認しているかのようにベーコンにクリームをたっぷり混ぜて麺を絡ませてズルズルと啜っている。 厚切りベーコンをよけて ほうれん草と麺だけを黙々と食べる。 ほうれん草が酸っぱい。 消費期限切れのせいか? レシートにはほうれん草の文字がある。 新鮮なのは間違いがない。 なのに なのにどうしてこんなに酸っぱいのか。 バルサミコ酢に漬けたとしてもこんなに酸っぱくはない。 仕方なくほうれん草もよけて、麺とクリームだけを食べきった。 (お腹が減ってなかったと言ったら納得してくれた。)
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