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午前八時五十二分
「大丈夫ですか? 大丈夫ですか?」
若い看護師の声で目を覚ます。
「ここは?」
「大丈夫? ずっと床で寝てたから何があったのかと思って。」
どうやら怪しい病院ではなく、総合病院に入院させられたことを知った。
「私のことわかる?」
「はい?」
「雑音のような変な声してない?」
「は、はい」
「このカーテン 何色?」
「灰色です。」
「良かった。
あなたは気づいてないかもしれないけどね、一種の精神異常に陥ってたのよ。
フォール病 最近は見なくなったけど
一昔前はあるゲームをプレイすると現実世界からゲームの世界へ引き込まれたような感覚に陥って 無意識に幻覚 幻聴の症状が現れるの。
あなたも調べてみればフォールクエスト やってたじゃないの?
でもどうしてかしらね今では発売なんて滅多にしてないし。」
「このゲームにエンディングは無いんですか?」
「さぁそれは分からない。
でもあるんじゃないかしらね。
もっとも全部クリアする前に病棟へ運ばれたってケースが殆どだからねえ。
でも噂によると 全部クリアするには..」
「ピンポーン」
「あっ他の患者さんが呼んでる。
とにかく二度とフォールクエスト プレイしちゃだめよ。」
後一週もすれば夏休み
風景画がプリントアウトされたカレンダーには事細かく予定表が書かれている。
病棟へ運ばれてからもう5日が経っている。
母とはたまにしか会えない。
「体調不良って言っておいたから。」
心なしか痩せているように見えるのも一種の幻覚のせいかもしれない。
「ごめんね.」
心無い謝罪しかできない自分が腹立たしかった。
暫く沈黙の時間が続き 次の話題を出し合うまで牽制をしていた。
「学校どうするの?」
「病棟から出られたら行くよでもいつになるかわからない。
誰からも退院の説明なかったんだなら。」
ぼんやりとした話を聞けなかった自分が更に憎かった。
母はまた口を噤ませた。
暫くすると じゃあねだけをいい部屋を立ち去った。
自動的にカーテンが締められ、今日も夏の夜空を楽しむことができなかった。
花火大会の残像がベッドに反射される瞬間を楽しむしかなかった。
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