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悲劇の魔女、フィーネ 26(残虐シーン有)
「う…うぅ…」
とてもではないが、まともに見られる映像では無かった。それなのに俺の目はPCに映し出される映像から目を離す事が出来なかった。
首だけになった彼等は激しく泣き叫んでいるが、さらにそこを容赦なく狼は襲う。彼等は顔を食いちぎられ、頭を割られ…頭蓋骨だけになっても口をカタカタ開けている。
「そ、そんな…嘘だ…まだ…まだ動いているなんて…」
その時、ある言葉が俺の耳に蘇ってきた。
『どんなに痛くても、出血しても…心臓が無事である限りは決して死ぬことが出来ない魔法です。彼等は…骨になるまで食べつくされましたが、心臓は無傷だったので…それでも死ぬことが出来ませんでした。フィーネの炎の魔法で心臓を焼かれるまで』
そうか…だから彼等は骨だけになってもまだ死ねないのか…?
その時、ふと思った。
「え?そう言えば…俺は何故知っているんだ?誰がこの話を教えてくれた…?」
映像はまだ続いている。画面が切り替わり、血溜まりの中に2つの心臓がビクビクと脈打っている。
そこに近づく黒いドレスの魔女。彼女は指先から炎を生み出すと、迷うこと無くうごめく2つの心臓に向けて炎を落とすと、あっという間に心臓は炎に包まれて燃え上がり…そこからどんどん炎が広がっていく。すると魔女はふらりと部屋を出ると血しぶきの飛び交う城の中をフラフラと歩いていく。
「何処へ行くんだ…?フィーネ…」
そこで2枚めのSDカードの映像が終わった。
「…」
俺は迷った。今まで見てきた映像はあまりにも凄惨な映像ばかりだった。職業柄、普通の人達に比べれば、ある程度の衝撃映像は耐性が出来ているつもりだったが…今回だけはそうはいかなかった。あの恐ろしい…吐き気がこみ上げてくるような映像はトラウマレベルだ。
けれど…。
残りのSDカードは後2枚。恐らくこの映像にも…大事な記録が残されているに違い無い。
俺は震える手で3枚目のSDカードを挿入し、再生を開始した。
映像はやはり先程の続きだった。
魔女フィーネがフラフラと暗闇の中を歩き…一つの部屋の前で足を止めた。魔女は扉を開くと、そこは音楽ホールのような場所なのだろうか?大きなグランドピノが置かれている。
「え…?ピアノ…。まさか…弾くつもりなのか…?」
すると魔女はピアノの前に座り、演奏を始めた。しかし…この映像には音が記録されていない。一体、どんな曲を弾いているのだろうか…?
やがて、光に包まれた青年が突如部屋の中に飛び込んでくると魔女フィーネを抱きかかえ、一瞬にして部屋から消えた。
「何っ?!消えたっ?!」
そして次に映ったのは…魔女フィーネが塵になって消えていくのを嘆き悲しんでいる1人の青年の姿が映し出されていた…。
その青年の顔は…俺にそっくりだった。
「嘘だろう…?あれは…まるで俺そのものじゃないか…?」
やがて映像は切り替わり、燃え盛る炎に包まれたアドラー城の姿が映し出されている。
「そうか…ああやって…アドラー城は燃え落ちたのか…。けれど…最後まで魔女の顔は分からなかったな…」
ポツリと呟いた。もう、この映像は作り物などではなく、本物の映像であることは間違いないだろう。
「これで…映像は全て終わりなのだろうな…」
すると、突然画面が切り替わった。
そこに映し出されていたのは…黒髪のとても美しい女性…。
そうだ、俺は何故忘れていたんだ?彼女は…俺の大切な女性だったのに…。
彼女はゆっくり口を開いて話しかけてきた。音声が録音されていないので声は聞こえてこなかったが…俺には分かった。
『ユ リ ア ン』
映像の中の彼女は俺の名を口にしていた―。
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