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「待たせちゃってごめんねえ。怖いお兄さんに頼まれごとしちゃって。だいたい我儘なんだよ、あの人」やっと終わったと桃はごちた。
「それって龍さんですよね? おじさん達は何か困ってるんですか?」
「あー。なんかもう少しかかるって」
「そうですか……」結愛はなんとなく不安になった。このまま延び延びになって帰ってこなかったら。そんな気持ちに支配される。
「──大丈夫だって。青塚さんの依頼が怪しくて危ないのはいつものことだから」
うん。そんな仕事もどうなんだろうかと結愛は思った。
結愛が桃に今回のことを説明をしている間、石山はキッチンでなにやら作業していた。冷蔵庫も自由に開けている。最初は気になって仕方なかったが、そのうち説明に集中していった。
「そのババア、ヤバいっすよねえ?」石山は結愛の説明が終わるとすぐに口を挟んできた。ずっと聞いていたのだろう。
「正直、関わらねえほうがいいっつーか」
「だね。でも青塚さんがいないんだから仕方ないじゃん」
「え? 桃さんまでそう言う……?」
俺はやめたほうがいいと思うんだよなあとかブツブツ呟き始めた。
「で、結愛ちゃんは何が知りたいの?」
桃にそう聞かれて、結愛はスマホの画像を見せた。
「この花の付いてるサンダルを探して欲しいんです。たぶんインスタかハンドメイドのサイトにアカウントを持ってると思うんです」
「花?」桃はスマホの画面を覗き込んだ。「花っていえば花だけど。まあ、なんていうか〈飾り〉みたいな。手作りなんだ?」
結愛は頷いた。「本当はレースの柄を検索してもらえたらいいんですけど」
「うーん。それはさすがに難しいかな。だったらこっちのが見つけやすい」
桃はさっそくパソコンに向き合った。結愛は慌てて桃にサンダルの画像を送った。
「あの」
「なに?」桃は画面から顔を上げずに答えた。
「石山さん、さっきから何してるんですか?」
「料理。石山くんのお好み焼きはめちゃくちゃ美味しいよ。いつも来る時はお願いしてる。勝手に三日分くらい作りおきしてくれるから」
「桃さんが下手すぎるんすよー」キッチンから声がした。「下手なうえに偏食だから放っておくと、この人死ぬなって」
結愛の眉間に皺が寄った。「それはよくない」
「だから龍さんが時々顔出して死なねえように食わせろって」
「優しい」
「俺の猫に死体とか見せたくないって」
「俺の猫じゃない。私の猫」
そこじゃない。結愛はどこから突っ込んでいいのか分からなくなってきた。龍と桃は仲がいいのか悪いのか結愛ははかりかねた。
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