エピソード1 おパンツの行方 4

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「──あった」  結愛は桃のひと言で慌ててそばまで寄って行った。 「見て」桃が指差した画面には同じサンダルがあった。「このアカウント」  結愛が見てみると、どうもあのおばさんのものとは思えないものだった。 「横浜の昔からある有名な住宅街に住む」 「これだけ見たら〈山手〉かなとか思うよね」  確かに桃の言うとおりだった。フォロワーは勝手に〈山手〉変換していて、いつの間にか〈山手に住むセレブなマダム〉という設定になっていた。 「セレブなマダム?」結愛は首を傾げた。どう考えても不思議な身なりで、肉を万引きしようとしていた。それに古くからある住宅地だったが、高級住宅街とはいえないところだった。 「そのサンダルに付けた花のモチーフでバズったみたい。画像はよく撮れてるから」  確かに作ったばかりの時は〈花〉の形をしていた。思ったとおり花弁にはスパンコールが使われていた。綺麗な花のデザインだった。だが今では散々履き古したのだろう。言われれば〈花〉という形を留めているにすぎない。 「100均の材料だけで、サンダルが可愛く盛れるって。しかもクリップでとめるだけだから、気軽に取り外しできるって話題になったみたいよ」  それがハンドメイドの最初の投稿だった。それからいくつか投稿している。ファンもついているのか、それなりに評価はされているようだった。  結愛は最新の投稿を確認する。思ったとおりだった。最近またバズっている。 「ちょっと周りを洗ってみる。なんか分かるかも」 「お願いします」結愛は頭を下げた。  そろそろ出来上がるという頃、石山のスマホが鳴った。慌てて出ると、向こうから何か叫んでるような高い声がした。 「──だから、それは龍さんに頼まれたっていうか。違うって」  なにか揉めているようだった。 「だーかーらー。違うって。浮気なんかするわけねえだろ? 誰だよ、白楽で見たなんて言った奴」  うん? 結愛はそれを聞いてふと考えた。電話の相手は石山の彼女で、もしかして浮気を疑われているのか? 白楽といえば自分と一緒に行ったところであった。 「もうすぐ焼きあがるっていうか、焦げんだろ! だから桃さんの家!」  うん。焦げるのは困る。誤解されても困る。 「龍さんに頼まれたって何度言や分かるンだよ!」石山は思わずスマホを離して怒鳴った。そのスマホが不意に抜き取られる。 「──電話かわりました。龍さんの愛人です。頼まれたのは本当です」  石山も桃も固まった。  簡単に説明すると電話の相手は『そ、そういうことなら』とトーンダウンした。どうやら信じてくれたらしい。最後は石山に代わってくれと言われたので、そのまま返した。  石山は「愛してるよ、ハニー」と言って電話を切った。リアルでそんなこと言う人がいるんだと結愛は驚いたけれど。 「──つか、結愛ちゃん。いつからアイツの愛人になったの!?」桃がやっと正気を取り戻して叫んだ。 「聞いてねえぞ!」石山も叫んだ。 「うん。だって口からでまかせだし。龍さんて愛人の一人や二人いそうだなって」結愛はシレッと答えた。 「うーん、それはどうかなあ。彼女も居ないのに?」 「え? でも遊びの一人や二人いますよね?」 「どうだろうなあ……」何故か桃の答えは歯切れが悪かった。「アイツの推しメンは青塚さんだよ?」 「え? そっちですか!」 「違う違う。ああいうふうになりたいって憧れなんだって」  結愛は首を傾げた。おじさんのどこに憧れる要素があるんだ? 「いつもお金に困ってますけど」 「あー。あれは仕方ないかも」桃は苦笑した。 「テメエ、後で龍さんに怒られるからな。とにかくもう飯にすっから!」  あとで謝っておこう。結愛は忘れないように手帳に書いておこうと思った。
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