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お好み焼きは絶品で、聞けば以前お好み焼き専門店でバイトしていたらしい。飲食店もいくつか経験しているらしく、料理に関しては得意分野なんだそうだ。
どうして今は飲食店で働いてないのかという結愛の問いにははっきりとは答えてくれなかった。
「まあ、いろいろあって」と濁されたので、結愛はいろいろあったんだろうと納得することにした。大人にはそれぞれ事情があるのだ。
「うーん、この人気になるなあ」桃はお好み焼きを食べながら、時折パソコンをいじった。どうやら本当に食べることには執着していないようだ。
「このさあ〈Ciao〉って人。この人、ハンドメイド界のインフルエンサーみたいなもんじゃないかなあ」
「その人がどうかしたんですか?」
「あんまりフォローとかしてないんだけど、あのおばはんはフォローしてるんだわ。ついでになんだか最近スランプみたい」桃はパソコン画面に集中してしまい、箸からお好み焼きが滑り落ちた。皿の上に落ちたのはいいが。あまり誉められたことではなかった。
「あー。この〈Ciao〉さんが何かアップすると、このおばはんも負けじとアップするのか……」
「でもたまたまってこともありますよね?」
「うーん。本当に〈高級住宅街に住むセレブなマダム〉だったらね。でもどうなのかなあ〈Ciao〉さんがレースの小物をアップすると負けじと三日と経たずにレースの小物をアップしてるからなあ。しかもマウント取る形で」
「あのババアならやりかねねえじゃん」
結愛もお好み焼きの皿を持ちながらパソコンの画面を覗く。
「〈フランス製のレース〉ですねってリプされてる。わざわざ書かないなんてさすがっていわれてるけど」
「盗んだもんなんだから、どこ産か分からなかっただけだろうが。そんでフランスも何も書けなかったんだろ?」
結愛は石山の言ったとおりだと思った。
「だとしたら、その〈Ciao〉さんが新作をアップしたらまた現れますかね?」
「でもレースにはレースなんだろ? じゃあその人が他の素材を選んだら、もう盗みはしねえんじゃねえの?」
石山がそう口に出した。桃はリプを丹念に読み込んでいた。
「いや。結構評判がいいからしばらくこれは続けるみたいよ。相当高級なレースって持ち上げられて、喜んでるから」
「──じゃあ〈Ciao〉さんが新作をアップした後がチャンスですね」
結愛は真っ直ぐに桃を見つめた。桃はそんな結愛を見てため息をついた。
「絶対ひとりで何かしちゃ駄目。私か石山くんと必ず行動すること。約束して」
結愛は力強く頷いた。
「ここまで分かったら、あとは待つって選択もあるんだぞ?」
「おじさんより危なくないから平気」
そうかなあ。石山は不安そうにそう口に出した。
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