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食べ終わって片付けを手伝っていると、結愛のスマホが震えた気がした。そういえばここに来てからスマホは確認していなかった。石山にことわってスマホを確認する。
「──ゲッ」
「どうした?」
「電話する」
結愛のスマホには鬼のように香川からの着信があった。須美には桃の家に行ってること、夕飯はいらないということ、遅くなるということは伝えてあった。だが気が付いたら日付が変わりそうな時間だった。
結愛は慌てて電話をかけた。
『いまどこにいる?』コール音ゼロという勢いで繋がった。
「遅くなってごめんなさい」
『うん。質問に答えなさい。どこにいるのかな?』
「桃さんの家」
『確か吉野町だったね。五分で行くから用意しといて』
「え? 五分って……」そう聞き返したが、電話はすでに切れていた。自宅からここまで車といえど五分では辿り着かない。いったいどこにいたんだろう?
「五分で迎えに来るって……」
結愛がそう答えると二つの悲鳴が聞こえた。
「おや。男の子がいるなんて聞いてなかったけど?」
車から顔を出した香川は確かににこやかだった。にこやかだったが──目は笑ってはいなかった。
「推しが……推しが……ナマ推し……」
桃は全く使いものにならない。だから仕方なく一緒に降りてきたのだが。石山は心の中で舌打ちをした。
「二人の用心棒みたいなモンっす」
「あと料理係」結愛が付け加えた。
ほー。香川は抑揚のない声で言った。
「変なものでも盛られてなきゃいいけど」
「そんなことしたら龍さんに殺されます」
「それはまた物騒な」
「ちゃんとわきまえてるンで」
香川は結愛に助手席に乗るように言った。そしてすぐに車を発進させた。
結愛は手を振っていたし、桃もずっと手を振っていた。
「ここに墓をたてたい……」
「バカ言ってンじゃねえわ」
こっちは冷や汗が止まらなかったっつうの。石山はやっとゆっくりと息をはいた。
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