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エピソード1 おパンツの行方 5
その二日後〈Ciao〉の新作がアップされた。
得意のスワロフスキーを使った夏のサンダルだった。オトナ女子という感じの可愛らしい作品だった。
「きたッ!」
結愛は慌ててベッドから起き上がった。そして天気予報を確認する。今日はどんよりとした曇りだった。しかも朝は雨が降っていた。明日は曇り。その次の日も次の次の日も一日中雨の予報だった。
明日だ。雨と分かっているのに洗濯物を外に干す人はいない。それが分かってるのに盗みには来ないだろう。明日の確率は相当高い。
結愛は桃に新作がアップされたことと天気の情報を知らせた。しばらくすると『じゃあ明日だね』との返信があった。秀実にも頼んでおかなければ。今日は〈ポアロ〉に来ているだろうか。
**
「うーん」結愛の話を聞いてそう唸ったきり黙ってしまった秀実を見つめた。
三種のチーズグラタンは少し冷めた。もう食べ頃だろう。「どうぞ」と秀実に言われて、結愛はスプーンを握った。
「本当に捕まえる気?」
「はい」そう返事はしたが、来るかどうかも定かではない。「ご協力お願いします」結愛は頭を下げた。
「そりゃ協力はするけど。いいから食べなさい、冷めちゃうわよ」
そう言われて結愛は慌ててスプーンを握り直した。
「もしかしたら秀実さんがいないのを確認してるかもしれません。だから〈おパンツ〉を干したら、普通に出て行ってもらって構いません。私と桃さんが中に隠れてます」
「桃ちゃんもいるならいいのか」
「石山さんもいます。もっとも石山さんは外で待っててもらいます。女性の部屋には入れません」
「うん、そこはどっちでもいいかな」
秀実はスプーンを握りしめたまま真っ直ぐ見つめる結愛を見てため息をついた。
「危ないことはしない。いいわね?」
「はいッ!」
結愛はやっとホッとしたのかグラタンを頬張り始めた。秀実はそんな結愛を見て苦笑した。
**
朝食もそこそこに結愛は出かける支度をした。正直考え始めたら、食べ物は喉を通らなかった。須美は何か言いたそうにしていたが、結局何も言わなかった。
今日はキュロットにした。忘れ物もない。結愛は履き慣れた靴を履く。
「結愛」そう呼び止められて振り返った。一輝だった。
「今日の午後には佐和が家に来るから。できるなら早く帰ってきて欲しい。その──結愛に会うのを楽しみにしてるから」
「分かった」
結愛は頷いた。
もし今日やって来ればカタはつくのだ。それならゆっくり一緒にご飯も食べられるはずだ。
「いってきます」
結愛は一歩を踏み出した。
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