エピソード1 おパンツの行方 5

1/4
603人が本棚に入れています
本棚に追加
/128ページ

エピソード1 おパンツの行方 5

 その二日後〈Ciao〉の新作がアップされた。  得意のスワロフスキーを使った夏のサンダルだった。オトナ女子という感じの可愛らしい作品だった。 「きたッ!」  結愛は慌ててベッドから起き上がった。そして天気予報を確認する。今日はどんよりとした曇りだった。しかも朝は雨が降っていた。明日は曇り。その次の日も次の次の日も一日中雨の予報だった。  明日だ。雨と分かっているのに洗濯物を外に干す人はいない。それが分かってるのに盗みには来ないだろう。明日の確率は相当高い。  結愛は桃に新作がアップされたことと天気の情報を知らせた。しばらくすると『じゃあ明日だね』との返信があった。秀実にも頼んでおかなければ。今日は〈ポアロ〉に来ているだろうか。 ** 「うーん」結愛の話を聞いてそう唸ったきり黙ってしまった秀実を見つめた。  三種のチーズグラタンは少し冷めた。もう食べ頃だろう。「どうぞ」と秀実に言われて、結愛はスプーンを握った。 「本当に捕まえる気?」 「はい」そう返事はしたが、来るかどうかも定かではない。「ご協力お願いします」結愛は頭を下げた。 「そりゃ協力はするけど。いいから食べなさい、冷めちゃうわよ」  そう言われて結愛は慌ててスプーンを握り直した。 「もしかしたら秀実さんがいないのを確認してるかもしれません。だから〈おパンツ〉を干したら、普通に出て行ってもらって構いません。私と桃さんが中に隠れてます」 「桃ちゃんもいるならいいのか」 「石山さんもいます。もっとも石山さんは外で待っててもらいます。女性の部屋には入れません」 「うん、そこはどっちでもいいかな」  秀実はスプーンを握りしめたまま真っ直ぐ見つめる結愛を見てため息をついた。 「危ないことはしない。いいわね?」 「はいッ!」  結愛はやっとホッとしたのかグラタンを頬張り始めた。秀実はそんな結愛を見て苦笑した。 **  朝食もそこそこに結愛は出かける支度をした。正直考え始めたら、食べ物は喉を通らなかった。須美は何か言いたそうにしていたが、結局何も言わなかった。  今日はキュロットにした。忘れ物もない。結愛は履き慣れた靴を履く。 「結愛」そう呼び止められて振り返った。一輝だった。 「今日の午後には佐和が家に来るから。できるなら早く帰ってきて欲しい。その──結愛に会うのを楽しみにしてるから」 「分かった」  結愛は頷いた。 もし今日やって来ればカタはつくのだ。それならゆっくり一緒にご飯も食べられるはずだ。 「いってきます」  結愛は一歩を踏み出した。
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!