エピソード1 おパンツの行方 6

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エピソード1 おパンツの行方 6

 青塚はデスクに足を乗せて届いた報告書を読んでいた。天気のいい日だ。ビールでも飲もうかと思った矢先に報告書が届いた。仕方ない。ビールはお預けだ。  青塚は長い報告書に目を通すと面倒そうに立ち上がって、パソコンと格闘する結愛のそばまで歩いて行った。そしておもむろに結愛の頭にその紙の報告書を乗せた。  結愛は驚いて振り返った。 「──今回の報告書だ。お前さんが担当したんだ。ちゃんと読んでおけ」  結愛は青塚の暴挙にムッとした顔をしていたが、手渡された報告書は受け取った。 『峯村裕子についての報告書』そう書いてあった。結愛は誰のことだか分からなかったが、頁を捲って写真のコピーを見て「あ」と小さく声をあげた。例の〈おパンツ〉泥棒の女性だった。  その女性の生年月日と住所も載っていた。  結婚して成人した子どもが二人いた。専業主婦で子どもも問題なく育った。二人とも巣立った後、夫の浮気が発覚。結果として夫も浮気相手も単なる遊びだったため、夫婦が別れるまでには至らなかった。だがその後、窃盗癖があらわれるようになった。特にお金に困っているわけでもないのに、生活用品(主に食品)の盗みが止まらなかった。  そこまで高額な商品が盗まれたわけでもなかったし、裕子の憔悴しきった顔をみて最初は口頭で注意という寛大な措置がとられた。だが止まらない窃盗癖に、とうとう夫が商店街の理事長と話し合いがもたれることとなった。夫は必死に頭を下げて、商品の代金を支払った。「警察には言わないで欲しい」という夫の願いを聞き入れる形で、今後商店街には足を踏み入れないということが決定した。  結愛はそれで遠くのスーパーまでわざわざ来ていたのかと納得した。やはり思ったとおりというか、窃盗慣れをしていた人物だった。もしかしたら気付かれなかっただけで、小さい頃から窃盗癖があったのかもしれない。  だが調査して行くうちに今もまだ窃盗癖が続いているらしいことが分かった。決定的な証拠を押さえることが出来なかったとスーパー側が言っていたという。ブラックリストの一員であることは間違いなかった。  夫は墨田区の会社に勤務していた。その会社は六十五歳が定年らしく、もうすぐ定年になろうとする頃だという。今回の件で夫を訪ねると、非常に驚いて平謝りだった。ただもうすぐ定年だし、定年後の再雇用も視野に入れている。それでどうか波風を立てないで欲しいと懇願された。  子どもは長男は埼玉で暮らし、長女は栃木に嫁にいったらしい。夫はもう癖みたいなものなので病院に連れて行って治療を受けさせると約束した。それで出した答えが今から住んでる家を引き払い、長男夫婦と同居するという選択だった。
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