苦汁

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 短い呻き声の後、どろりとした生温い液体が放たれた。忽ち、生臭さと不快な食感が口内を侵食する。  絶対に、口から溢すな。  固く目を閉じ、自分に強く命じた。以前、堪らず吐き出してしまった時、床を舐めさせられた苦い思い出があるからだ。 「残さず飲め」  彼は私を見下ろしたまま、満足気に言い放った。  この瞬間が、一番嫌いだ。  息を止めたままごくり、と飲み込んだ。彼は私に口を開けるよう命じ、それが残っていないことを隅々まで確認した。 ✳︎✳︎✳︎ 「おれのこと好き?」 「お前はおれのこと、捨てたりなんかしないよな?」  彼は私を抱く度に、耳元でそう尋ねる。じっと口を(つぐ)んでいると、彼は動きを止め、凍てつくほどの真顔で私を見下ろした。 「おい、無視してんなよ」  そう言って、力を込めて首を絞めながら、激しく腰を打ち付けた。「好きだろ? おれのこと」泣き出しそうな、懇願するような声で、私を問い詰める。お決まりのパターンだ。たとえこうなることが分かっていても、私はどうしても認めたくなかった。  しかし、それも(じき)に限界を迎える。息ができない。彼の顔が、幾重にも重なって見える。脳に十分な酸素が行き渡っていないのだろう。  もう、これ以上は、耐えられない……。 「ずぎ……だがら……やめで……」  彼の手に爪を食い込ませながら必死に訴えると、彼は満足そうにその手を緩めた。そして、涙を溢しながら激しく咳き込む私をそっと抱き締め、「ありがとう。おれも大好きだよ」と、頬を伝う涙を丁寧に舐め取った。
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