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#00. 愛は、知らないうちに宿っている。R
「伊澄。……おれの、伊澄……」
そんな切なそうに言わないで。わたしのなかでうごめくあなたは。
「ああ……」急所を探り当てておいてふ、と笑う。その余裕が憎らしい。「……ここ、だよな? どんくさいずみが弱いの……ふふ。びくびく言ってる……」
そして愛おしそうにわたしを抱きしめてあなたはわたしとさらにからだを密着させるのだから。ますます、わたしのこころは、あなたから離れられなくなる。――ねえ。
あなたなしじゃ、生きていけないよ。あなたに……骨抜き。こんなにも、あなたの技術に酔わされて……身も、心も。
「……拓、己、さん……っあああ……っ」敏感すぎる蕾をぎゅうと握られわたしはひときわ高い声をあげた。こんなことするなんてほんとにこのひと、鬼畜。「やめ……そこ、わたし……、あああん……っ」
泣いて訴えると涙の粒をそのなまあたたかくてやわらかい唇で吸われていた。いい声、とあなたの声が降ってくる。あなた――『タク』の。
『あの頃』から声変りをして、すこし、低くなった声が耳朶を打つ。――わたし。
あなたに、恋をしている。幼い頃に芽生えた恋心は風船のようにわたしの胸の中で膨らんで、肥大して――やがて世界を覆いつくすほどの愛の粒となって舞い降りてくる。その、激しい愛の雨に打たれ、恍惚に酔いしれわたしは悟る。――愛は。
「愛している。伊澄」
「わたしも。……タク」
知らないうちに宿っているのだと。
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