#01. 同じ幸せを共有しています。

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 風が、やわらかな頬を、撫でていく。同じ世界なのに、ふたりきりでボートに乗っているだけで、世界に取り残された気分になる。湖の上を浮遊する感覚も、気持ちがいい。湖面の温度が透明度を際立たせる。透明な空気を肺から吸っている、健やかな、心地。  周りにも緑があって、湖面に反射し、視覚的にも癒される。モネの世界に迷い込んだ旅人の気分。わたしたちと同じようはカップルはほかに何人もいる。 「……なににやついている」と拓己さん。「おれはな。怒っているんだぞ」 「愛しているの間違いじゃないですか?」 「ったくおまえは。どんくさ伊澄のくせに。言うようになったじゃねえか」 「黒沼さんの、教育の、賜物です」とわたしは微笑んだ。「……水浦さんは、どこまで、ご存じなんですか?」    はあ。と大きくため息を吐く、拓己さん。……ペース狂わされてるっぽいな。「割と早い段階で。……おれら、『タク』仲間で、職場でびしばしあいつをしごいたのはおれだから。変に、親近感持ってるっぽいんだわ。……で。気づいたと。  おれの、おまえを見る目が、違っているということに」  まっすぐに見つめられ、孤独が加速する。……やだ。そんな目で、見ないで。
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