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「わたしも、……もう。あなたを、知らなかった頃の、わたしには、戻れません」心臓が貫かれるほどの情愛を、胸に感じながら、言葉を、放つ。すると、拓己さんは、
「おれ、……おまえの、『初めて』。貰っちまったもんなぁ。……責任は取んねえと」
「ちょっと黒沼さんそれ、どういう意味……」と言いかけたところでボートは到着。先に降りた拓己さんが、わたしに、手を、差し伸べる。わたしと手を繋ぐと、黒沼さんは、くくっと笑った。
「ここでおれが手を放したらお池にぼっちゃーん。だぜ」
「でしたら望み通り」ぐん、と手を引っ張ってやると、「おいこら」と黒沼さんに抱きしめられた。
「あぶねえだろバーロー」ちょっと本気で落ちてみる気持ちで引っ張ったのだが阻まれた。黒沼さんってからかい甲斐があるなぁ。「……すみませんでした」
「ほら、行くぞ」
そうして手を引き、ずんずん先を歩く黒沼さんの耳は、真っ赤だった。……可愛いなぁ。――わたしたち。
同じ幸せを共有しています。
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