#02. 新婚ごっこ

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(拓己さんの……匂い……)  ほっぺが焼けこげそう。……彼の指先がどんなふうに野性的にかつ妖艶に動いたのかをわたしは知っている。彼の屋性がどんなふうにわたしの性欲を彩るのかを知っている。もう――知らないわたしには戻れない。だから……こんなにも、あなたの香りを感じただけで、心臓が、うずく。  ああ。 「好きすぎて……辛い」そんな現象を味わうのは勿論生まれて初めてのことだ。拓己さんの住むところにやってきて。インテリアが白と黒で統一されている、持ち物にはこだわるタイプ……そんな、彼の、性質の欠片を感じただけでどうしようもなく切なくなる。胸が、じーん、となる。  水浦さんと一緒に来たときは、なにか……違った。あくまで、職場の上司として認めようと……いや、でも、わたしは、意識していたけれど。あのときはまだ『壁』があった。それがいまは、取り払われている。  すとん、と冷たい床に足を下ろし、やがて、歩き出す。キッチンのほうへと。……わぁ、いい香りがする……。
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