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彼女はカウンターに入ると黒猫の喉を軽くくすぐって、それからコーヒー豆を挽き始めた。
ガリガリと、豆を削る音が店内に響いて甘いコーヒーの香りが漂ってくる。
何か話した方がいいのか、それとも黙っていた方がいいのか。
思いあぐねいている私に彼女の方から話しかけてきた。
「タルトとミルフィーユ、どっちが好き?」
慣れた手つきでウサギのマークのついたレトロなポットからお湯を注ぎながら、彼女は私を見ることなく尋ねる。
湯気に隠れてよく見えなかったけど、その口元は微笑んでいるように見えた。
「えと、その……良いんですか?閉店時間じゃ?」
「今日は特別。はい、どっち?3・2・1……」
「え、じゃ、じゃあタルトでお願いします!」
ゼロの声と共にお湯を注ぎ終わる。
あれ、そっちのカウントダウンだったのかなんて思っていると、彼女は機嫌よさそうに冷蔵庫に向かい、タルトとミルフィーユを取り出し、ミルフィーユを私の前に置いた。
柄に花柄の陶器の装飾がされた可愛らしい金色のフォークと、青いボタニカルな柄の描かれた可愛らしいお皿。
そしてお皿と同じ柄のコーヒーカップも静かにその隣に並べられる。
「ちょうど1切れずつ残っていたの。もう夜だからデカフェにしておいたから。ミルクはいる?」
そう言って彼女もカウンターから出てくると私の隣に座った。
受け取ったミルクをコーヒーに注いでいくと、黒い液体に白い液体が混ざって茶色い液体となっていった。
「はい、じゃあ乾杯」
彼女はコーヒーカップを持って私のカップに軽くぶつけた。
陶器の奏でる心地良い音がレコードから流れる音楽と混ざり合って、そしてそこに黒猫が鳴らすゴロゴロ音が合わさって私の胸に染み込んでいった。
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