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第一部 真実迷走
県内出身者として初のラグビー日本代表となった石木田忠司は、その二年後、あっさり引退した。
「人命救助に尽力したい」として消防の世界に飛び込んだ。
元日本代表ともてはやされ、救助隊員になったまではよかった。が、甘くはなかった。
ロープの扱いひとつにしても「こんなこともできねえのか」としばしば怒鳴られた。
救助方法の選択、手順、資器材の取り扱い等、救助隊員になった後も覚えることが山ほどあった。
すぐに行き詰まり、俺はどうしたらいいのかと悩んだ。
悩んでいても、災害出動はある。
ある日の出動で、逃げ遅れの情報があった。
「とにかく行け」隊長から指示され、追い立てられるようにして濃煙熱気の中へ飛び込んだ。
その際に「一人で行くな」と言われたらしいのだが、耳に入らなかった。そのまま単独で突入した。
逃げ遅れは男性が七人だった。
高齢者もいたが、歩行を介助し、他の者を誘導した。無我夢中だった。
無事七人を救助。怪我もなかった。
「黙っててくれたら便宜を図る」
救助したひとりから言われたが、何のことかわからなかった。
「よくやった」
初めて上司から褒められた。単独で突っ込んだことは何故か咎められなかった。
救助功労として、市民栄誉賞まで受けた。
あとから分かったのだが、救助した七人は、市会議員が三人、県議会議員が四人だった。
救助されたことで、彼らは議会そっちのけでゴルフに行くために集まっていたことが暴露された。
あれから三十年が経とうとしている。
あの時救助した議員のひとりは、市長になった。県議会議長になった者もいる。
そして自分は、今、消防本部副本部長である。
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