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「っていうか、暦的には既に夏だすべ。べつに無理して宣言しなくたっていいんじゃないすか、梅雨明けしてもしなくっても、夏は暑いもんすよ」  運転している青沼慎二(あおぬましんじ)は、前を向いたまま淡々と答える。 「梅雨明けしねえうちに稲刈り始まっちまうで」 「さすがにそれはねえでしょう」  どうだかねと岩川は顎の汗を拭い、防火ヘルメットをかぶる。  最近は過去にさかのぼって「いついつ頃に梅雨は明けたようです」的な発表が当たり前のようになされるようになったので、そんな曖昧な発表など必要ないと思っているのだろう。 「今じゃあ、北海道だから、東北だから夏でも涼しいっていうわけじゃなくなっちまったもんなあ」  青沼以外話に乗ってこない。温度の高さに反比例して車内の反応はあまりに冷ややかだった。 「夏は暑いもんだって思えばと諦めもつくっすべや」青沼がダメ押しする。 「まあそうだけどさ」 「気分的なもんすよね、梅雨明け宣言してもらわないと、気持ちの切り替えができないというか」  ようやく打川亮平(うちかわりょうへい)の張りのある声が後部座席から飛んできた。新拝命らしくはつらつとした声だ。車内がぱっと明るくなった。  岩川は思わず「そうそう、そういうこと。夏に向かうんだっていう気持ちに切り替えるきっかけが必要なんだよな」と大きく頷いた。 「あ、そ」
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