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 二番員の打川亮平は、三月末に卒業配置されて三か月しか経っていない新拝命である。杉淵とは逆で、よくしゃべる。明朗快活、意気軒高な態度が未熟な部分を補っている。学生時代は剣道でそれなりの成績を残したらしい。  若い二人にしてみれば、とにかく災害活動に出動し、経験を積みたいところであろうが、岩川にしてみれば、無理せず事故なく怪我なく活動を終えて、無事に引き揚げることができればそれでいいと考えている。  今回の出動に関して言えば、到着したら既に延焼防止がなされていて、別命あるまで現場待機とか、あるいは、消防隊到着時既に建物は先着隊により包囲され、自分たちは現場待機するという状況であればいいなと岩川は希望している。  こんな都合のいいことを密かに期待するのは、おそらく自分だけではないだろう。同年代の者なら皆、できることなら危険な場面に遭遇することは避けたいに違いないのだ。 「青さん、慌てなくていいぞ」 「了解す」  機関員の青沼は前を向いたまま、抑揚のない、事務的な返事をした。マイペース、ちょっとやそっとでは動じない性格のようだ。表情を変えないでハンドルを握っている。
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