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1-1 青年、化けものを拾う
化けものを拾った。
つい先ほどまで、雨が降っていた。
ちいさいそれは濡れ、ふるえていて、いまなおこちらを警戒しているのがわかる――警戒しているから、動かないでいるのか。
とくに危険のなさそうな相手に思われた。
こちらになにか危害を加えるように思えないのは、それの身体の大きさが私の腰くらいまでしかないからかもしれない。
警邏を呼ぶか迷った挙げ句、私はそうしなかった。
化けものを手招いてみる。
「……怖く、ないよ」
ただ相手が怖くないかどうか、そこを私は知らないでいる。
それはふたつの目らしきものであちらこちらをうかがい、私のほうによたよたと近づいてきた。
私は化けものを横目にし、数歩進む。
足を止めていた化けものを、また手招いてみる。
やや間を開け、化けものは着いてきた。
そこからはもう手招かなくとも、化けものは私のあとに続いてくれた。
あとに続く弱い足音に耳をかたむけ、私はことさらゆっくりと夜道を進んだ。
ただでさえ少ない近隣の人家が消え、減る一方の街灯が途切れるところがあり、その少し先に私の家はある。
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