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国民のアイドルの主張に、局長は顔をしかめる。
「わかったわかった。それはちゃんとするよ。そうそう、ひみこさんへメッセージを預かってたんだ」
強引に話題を打ち切られ、ひみこはムッとする。
「ほら、前、話した男の子、カン君から連絡が来たんだ」
え?
不当な仕打ちを受けた日本語族としての怒りは、たちまち消え去る。ひみこの胸に温かい何かがふわっと広がった。
カン・シフには嫌われ軽蔑され、二度と会えないと思っていたのに。
「ダヤルさんとの結婚がなくなったから、あんたに会いたいってさ。彼は前から鈴木さんの熱心なファンだからねえ、どうかなあ?」
花子が割り込んできた。
「やったじゃない! やっぱりカン君にしな!」
「あ、で、でも」と戸惑うひみこに、花子が畳みかける。
「あんた、さっき結婚したって言ったけど、結婚式から逃げたばかりでそんな時間ないよね。それ、ファンの誰かとメールで盛り上がったとかだろ?」
ひみこは、バカにしていた母からの鋭い指摘に、何も答えられない。
「この子の方が絶対いいって。顔はいいし、情報工学ってよくわからないけど、頭いいんでしょ? おばあちゃんは日本語族だし、完璧!」
母親は、娘のお見合い相手の条件を事細かく記憶していた。
一方、太郎は花子を制する。
「ひみこはまだ十八歳だ。結婚なんてまだまだ先だ」
ひみこの顔が見る見るうちに赤くなる。
彼が自分を軽蔑しているにしろ、会って話したいと思ってくれている……恨み言をぶつけたいだけかもしれないが……ううん、どんな言葉だって構わない。
会ってくれる以上、こちらも返事を出さないと。
まず、プレゼンコンテストで助けてくれたことへのお詫びとお礼を伝えるのだ。そこから始める。
できれば友達になりたい。同じ日本語族を先祖に持つ者同士として。
わかっている。AIのシフとは違う。リアルの男性にいきなり結婚なんて迫ったら、ドン引きされる。
メッセージを送信しようと腕時計を見ると、カン・シフからの最新メッセージが届いていた。
叱られたらどうしよう? と、ひみこは不安になりつつ、メッセージを表示させた。
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僕のお嫁さんへ
ひみこさんから、たくさんプレゼントをもらいました。ありがとう。
三倍返し、いえ三十倍にして返します。待っててください。
ポンコツと言われないよう、がんばります。
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