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太郎も合わせてしゃがみこみ、娘の頭を撫でる。
「もしかして、お前、そのカンって男に何かされたのか?」
何かされたのではない。何かどころか、とんでもないことを、こっちがやったのだ。
「違うよお! でも帰る! 東京帰るの!」
「わかった。父ちゃんが、そいつをやっつけてやるからな!」
太郎は立ち上がり、飛び出していった。
「ちょ、ちょっと待って! だめー!! 誰かうちのバカ父ちゃんとめてー!!」
ひみこは父を追って走り出した。ただでさえ、自分の印象は最悪なのに、バカな父親のせいで台無しにされてはたまらない。
父が彼に理不尽な暴力をふるうのだけは、やめさせなければならない!
鈴木ひみこの頭は、日本語族の行く末よりも、久しぶりに再会した家族よりも、三年半前にごく僅かな交流をした青年との関係をこれ以上悪化させたくない、そのことでいっぱいだった。
鈴木太郎は、娘に近づく男を追い払うため一目散に駆けだした。
鈴木ツクヨミは、ずっと会いたかった姉がちっとも相手してくれないことが悲しくなり「ねーちゃーん」と叫び、パタパタと走っていった。
鈴木花子は娘が条件のいい男と結婚することを望み「父ちゃん! 若い二人の邪魔するんじゃないよ!」と呼びかけ、三人を追いかけた。
鈴木ひみこは普通の十八歳だった。
そして鈴木家は普通の日本の家族だった。昔からあり今でもある、ごく普通の四人家族だった。
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