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夜になり僕は寝る準備をした。
だけど自分の部屋があまりにも不気味すぎて映画に出てきそうなホテルのような雰囲気に圧倒される。
「お化け屋敷、って言われるのも無理もないね。きっと前に住んでいた人も僕と同じく怖がっていたのだろう」
『そうか?まあそいつはすぐに何年もしないうちに出ていったぜ』
いきなりシロウがあらわれて、僕はベッドから飛び上がる。
「うわああっ。なんだシロウか……」
どうやって入ってきたのだろう、ドアは閉まっているままだ。
窓辺には満月の光がさしてシロウを照らしていた。
『悪いな。だけど、紫音はきっと本当の俺を見ても絶対に逃げないでくれ』
「それって……」
なにか言いかけようとした途端、シロウは唸り声をあげる。
爪が伸びて、口からは牙も生え、背も高くなっていく。
そして雄たけびをあげて、シロウは本来の姿へと変化していた。
幸い、窓とカーテンを閉めていたからよかったけど。
僕は言葉も出せずただただ、シロウを見つめることしかできなかった。
『怖がらないのかよ?相当勇気があるんだな』
地の底からはいあがるような低い声。
これが僕が最初に出会った魔族。
シロウが舌なめずりをする、その長い舌も本能の証なのだろう。
『シオンを喰ったりはしない。俺がほしいのはお前の弱さだけ』
「弱さ?いったい何を?」
すると僕の背後から黒い煙が出てきた。
耳元て泣き声が聞こえる。
「ゆ、幽霊!?」
『違う。お前に憑いていたのが俺の餌。つまり偽りのシオンだ』
「まさか……」
『見ていろ、お前は今日から強くなる』
すると、シロウが僕の背後にいた黒い煙を掴む。
その煙はイヤイヤしている、放せと言っているのだろう。
『安心しな。もう寂しくないからよ』
と黒い煙を舌でまきつけ口に入れ喰らいのみこむ。
まるで捕らえた獲物をやっと捕まえたかのような勢いでシロウは満足そうに舌を出した。
『人間のマイナスなオーラが一番美味いんだぜ。ごちそうさま』
「……すごい」
当たり前だ、こんな光景をみせられて冷静でいられるのがファインプレーだ。
僕は、なんだか身体が軽くなったように元気になった。
「ねえ、シロウ」
『なんだ?』
僕はすでに覚悟を決めていた。
シロウが言った強くなる意味が、僕にはわかった気がした。
「もう、見ないフリはしない。困っているヤツがいたら話を聞いてあげることに決めた」
『そうか。シオンはもう誰とでも仲良くなれそうだな』
シロウに好かれたということは他にも魔族がいるということ。
それで誰かを助けられる力が自分にあるなら。
「シロウみたいなヤツ、他にもいるんだろ?」
『ああ、いるぜ』
だったら自分のやるべきことは一つ。
「僕、シロウと仲良くなりたい。明彦と友達になれたように!」
『俺はとても幸せな狼だぜ』
こうして僕は、魔族交渉人としての生活がはじまろうとしていた。
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