1人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は玄関にむかい黒いスニーカーとモスグリーン色のリュックを背負い家を出た。
何を言われようが、今日から切り替えていかないとおいていかれる。
ただ、一部の不安があるだけで。
「君が月読君だね、不安もあるだろうけどきっとなれるさ」
担任の古城先生が優しくほほえみながら僕を歓迎した。
廊下を歩いているのに、どうしてこんなに緊張するのだろう。
転校生の気持ちがやっとわかってきた。
「はい。僕、がんばります」
「いやー、まさかあのゲーム会社の社長さんの生徒なんてね。俺も本気を出さないとな」
「父が喜びます。でもフツーに接してほしいです」
「わかっているさ」
こんなイケメン先生が担任なんて、僕が緊張してしまう。
そりゃ、女子のみんなが黄色い声をあげるだろうな。
そして僕たちは、教室につく。
二年二組、ここから僕の新しい物語がはじまるんだ。
古城先生が先に教室に入る。
「ほら、みんな席につけー!」
さっそく女子たちが黄色い声をあげている。
男子たちはいつものように退屈していた。
あいさつをして、先生の合図で僕がこの教室の中に入るんだ。
あっ、はじまった。
「さあ、今日からこのクラスに新しい子が来るぜ」
古城先生の発言に教室がざわつく。
「えっ!?だれだれ、かわいい子か!」
「イケメンかもしれないじゃん!」
「フツーの子かもしれないよ」
やっぱり期待の声が多い。
僕は深呼吸をした。
「静かにしろ!さあ、入ってきてくれ」
「は、はい!」
僕はそっと教室のドアを開けた。
男子が圧倒的に多い、女子はそこそこかな。
教室に入ると生徒たちはおどろいた表情をしていた。
僕の印象がとても伝わってしまったのだろう。
古城先生はそれにかまわず僕に指示した。
「じゃあ、名前を黒板に書いたら軽く自己紹介をするんだ」
「はい」
僕はみんなに見えるような字で白チョークを使う。
生徒たちはまだ驚いたままだった。
「えっと。僕は今日からこのクラスに転校してきました。月読紫苑です。父の転勤で来たのでよくわからないのですが。とりあえずよろしくお願いします」
すると一人の男子生徒が立ち上がり僕に質問した。
「えっ!?月読ってあの有名ゲーム会社の社長のやつ!?」
「そ、そうですが」
男子たちは歓喜の声をあげていた。
古城先生は誤解されないようにくわしく説明する。
「あー、まあ。確かにそうだが。だからってからかうのはダメだからな。一応彼はジェンダーレスだから。そこのところはよろしく頼むぞ」
女子たちはざわめき、僕が女だと認識している子もいれば驚いている子もいた。
「つまり、イケメン王子様ってやつですね!」
「なんかそう考えたら、カッコいいかもー」
「ちょっと。月読さんがかわいそうでしょ」
少ない女子たちに僕はフォローされているのかいないのか。
頭がこんがらがってきた。
「コホン!だから授業でこの前もやったよな。あまり彼を刺激させないでくれよ。てことで拍手!」
古城先生の力強い声に圧倒され生徒たちは拍手した。
「月読君の席は……氷室のとなりだ。わからないことがあれば聞くように」
「ありがとうございます」
僕は指定された席に座ると、氷室君と呼ばれた彼が僕をじっと見つめていた。
あれ?もしかして彼は不良なのか。
「よ、よろしく」
「ああ」
ぶっきらぼうにうなずくと彼はまた窓をみる。
こうして僕の新たな学校生活がはじまった。
最初のコメントを投稿しよう!