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「息子さんを僕にくれませんか」
……は?
「お願いします。融資する代わりに、息子の冬麻さんを僕にください」
二回も繰り返して、その後深々と頭を下げている。まるで結婚の許しを彼女の父親にお願いしにきた彼氏みたいだ。
久我がずっと頭を下げたままなので、父親が「顔を上げて下さい」と促した。それでやっと久我は頭を上げた。
「冬麻。俺のところに来る気はないか?」
やめろやめろ。なんでそんな艶っぽい目で見つめてくるんだよ……。
しかもなんでいきなり下の名前で呼んでるんだ? それ以前に、どうして名前を知ってるんだよ……。
「冬麻。必ず幸せにするから」
いやあの可笑しいだろ。初対面で言う言葉じゃない。
「あ、あの、い、言ってる意味がちょっと……」
さすがの父親もとんでもない提案に引いている。
借金のカタに娘はいただくぞ! という話ならどっかで聞いたことあるけど、それだって作り話の中だけだ。現実にあるわけないし、まして冬麻は男だ。
「ああ、すみません。少し誤解を招くようなことを言いました。冬麻さんを我が社に迎えたい、という意味です。我が社に入社していただけたら、現場に立って実技を身につけたり、本社業務に携わり、経営を学ぶこともできます。どうですか? 悪くない話だと思ってはいるのですが……」
「そ、そうでしたか……」
父親が安堵したのがわかる。冬麻だってそうだ。さっきの久我の言葉は、初対面プロポーズかと勘違いするくらいの言葉だったから。
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