鍛冶屋のへパイス

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鍛冶屋のへパイス

火の玉が胸に命中すると、スケルゴンは苦しそうな声をあげた。 「ぬぅぅ!?既に攻撃ポイントも見切っておったか!」 「やったよ、ワルタ!手応え有りだよ!ダメージを与えられた!」 「良し、ジュン!きっとここからが本場だ、気を抜くなよ!」 さぁ、次はどんな攻撃が来る?スケルトンのように身体の骨を投げつけてくるか!? 「とりあえず、こんなもんか。ほれ、討伐の証をくれてやる」 スケルゴンは、どこからか宝箱を出して俺たちの方へ放り投げた。 「え!?討伐成功なの?」 「あ、あぁ・・・どうやら、そうみたいだな」 肩透かしを食らった気分だが、これで終了らしい。 「ワルタ、洞察力と判断力は認めてやる。だが、基本的なキャラコンは練習しておけよ」 なんだろう、不思議な気分だ。 現実世界じゃ、何でもできるから凄いとか言って誉められる事にすっかり慣れてしまっているせいか・・・人(モンスターだが)に認められるのが、とても嬉しかった。 「えっと・・・はい、練習します。なんて言うか、ありがとうございました」 「ヘルメスに頼まれた時は面倒だと思ったが、久しぶりに楽しませてもらったぞ。小僧・・・いや、ワルタよ。ほれ、宝箱を開けてみろ」 言われるがまま、宝箱を開けてみると・・・スケルゴンの頭部みたいな形をした骨の兜が入っていた。 「うぉぉ!?か、カッコいい!」 俺は興奮して、兜を両手で掲げた。 「え?ワルタ、それカッコいいと思うの?」 『ワルタ君、意外と悪趣味・・・いや、独特なセンスなんですね』 俺のリアクションにスケルゴンは上機嫌で顎の骨をカタカタ鳴らす。 「このセンスは女子供にはわからねぇよなぁ~なあ、ワルタ?」 「最高にカッコいいですよ!すまん、ジュン・・・貰って良いか?」 「ボクの好みじゃないから、どうぞどうぞ」 スケルゴンの兜を装備したが、不思議な事に視界に変化は無い。 「てか、それ見づらくないの?」 「あぁ、視界に変化は無い」 「顔、口しか見えないよ~せっかくのイケメンなのに」 「ん?まぁ、これから一般プレーヤーが増えるなら知り合いに出くわすかも知れんし、顔が見えない方が都合は良いな。しかし、革の鎧と合わないのが残念だ」 『それなら、鍛冶屋のへパイスに頼めば武器や防具のデザインや色を変えてくれますよ。性能は変わりませんけど。あと、マニーもかかりますからね』 「おぉ、ならマニーを貯めて兜に合うデザインにしないとな!」 「今度、仕上がりを見せにこいよワルタ」 「はい、この兜に恥じない鎧にしますね!」 俺たちはスケルゴンに手を振り、骨の森を後にした。 ギルドに戻るとヘルメスが鼻をほじりながら俺たちを出迎える。 「どうだった、クソガキども。少しは成長できたか?」 「最初から、コーチングの為のクエストだったんですね。おかげでジュンはレベル6になってキャラコンも上手くなり、俺はレベル5になってカッコいい兜もゲットできました。ありがとうございます」 ヘルメスは真顔で俺の顔を見つめ・・・鼻くそを飛ばしてきた! 「きったな!何するんですか!?」 「なんか、ムカついた。まぁ、良かったんじゃねえか?クソガキども。ほれ、報酬のジュエルだ。ガッチャは回すか?」 成功報酬を貰い、500ジュエルで5連ガッチャをすることにした。今回のドアは金色に輝いている。 ガッチャで手に入れた武器は両手持ちの不気味な黒い大剣、片手持ちの銀の長剣、銀の胸当て、銀の鎧、銀の弓だった。 「この不気味なギザギザした刃の黒い大剣・・・サックオブライフって特殊な効果があるみたいだな」 『サックオブライフはダメージを与えると、その1/3程度体力を回復する魔剣ですよ。ただ、盾とは併用できないので使いこなすには、かなりのキャラコンが必要になりますね』 「そうなると、俺には向いてないかな」 『必要無い武器はマニーに変換も可能ですよ。鍛冶屋にはマニーで購入可能な武器や防具もあるので、上手くやりくりして装備を強化すると良いかと!』 「弓かぁ~やっぱり、杖を使った方が魔法系のステータスが上がりやすいとかあるの?」 『ジュンさんは、こういう類いのゲームのノウハウがかなりありますね。まさに、その通りです』 「とりあえず、銀の長剣と鎧は俺が使って胸当てはジュンってところか。いらなくなった装備は売ってしまおう」 新たな武器、防具を装備して俺たちは鍛冶屋へと足を運ぶ。 また、ヘルメスさんみたいな濃いキャラが現れるのだろうか? 「いかにも、工房って感じの建物だな」 煙突がある赤いレンガ作りの建物のドアを開けると、中は少し蒸し暑かった。 奥の方から、金属を槌で叩く音が聞こえてくる。 「作業中みたいだな」 集中しているところに声をかけるのは、悪いかな・・・と遠慮している俺を尻目にジュンはどんどん進んで行ってしまった。 「すいません~武器や防具を見せて貰えますかぁ?」 「お、お客さんかい。ちょうど一息つこうと思ってたとこだ」 頭にバンダナを巻き、白い髭を蓄えたガッチリした体格の初老の男性が杖を手にして立ち上がり、座り心地の良さそうな椅子へと移動し、腰掛けた。 「どんなモンをお探しだい?」 普通の人で良かった。そう思いながら話を続ける。 「俺は銀の鎧を兜の雰囲気に合わせた形状にしたいです」 「ボクは魔法使いっぽい装備を探してます」 へパイスさんは長い髭を軽く擦りながら、俺たちを見つめた。 「骨っぽい凹凸(おうとつ)をつけて、革の服を黒く染めりゃ良いんじゃねぇかな。お嬢ちゃんにオススメなのは魔石付きの杖ってとこだな。もう魔法は習得済みかい?」 「初級炎魔法は習得済みです!」 「なら、赤石の杖だな。炎の魔力を高める石が先端についてる使いやすい杖だ。お代はざっとこんなもんか」 見積もりを見ると、マニーは全然足りなかった。 「う~ん、何か売るか・・・」 「なら、銀の弓と古い胸当てと鎧を売っちゃおう!」 「お、銀の弓なら高く買い取るぞ。ちょうど銀を切らしてたからな」 胸当てと鎧は雀の涙だったが、弓を売ったおかげでマニーは何とか間に合った。 「お嬢ちゃんの杖は予備があるから持っていきな。鎧は時間がかかるから、また明日取りにきてくれ。黒い革の服はオマケしてやろう」 「ありがとうございます!」 へパイスさんにお礼を述べ、今日のところは宿屋で解散する事にした。
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