リアルの時間

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リアルの時間

ログアウトして時計を見ると、4時間ほどプレイしていた。 4時間が、あっという間に感じるとは・・・いままでゲームにのめり込んだ経験がなかったから、自分でも驚きだな。 あ、良く良く考えたら明日は祝日だ・・・もう少しだけプレイしようかな。 しかし、ログインしようとしたがメッセージが表示されログインできない。 『あなたは前回4時間プレイした為、あと2時間はログインできません』 このゲーム、インターバルがあるのか・・・見た感じ、プレイ時間の半分ってとこか。 きっと、ゲーム依存性対策ってとこだろう。2時間待ってプレイするより、ちゃんと休んで明日またログインするとしよう。 翌日の朝 なんだ、スマホが鳴ってる・・・どうにか目をこじ開けて画面を見る。 電話はクラスメートの友人からだ。 「もしもし、どうしたんだ?」 「今日、皆で買い物行くんだが一緒にどうだ?」 買い物かぁ・・・何か、ゲームに役立つモノとかもあるかも知れないし、人付き合いも大切にしないとな。 「何時に集合だ?」 「そうだな、昼飯も皆で食べたいし11時半にいつものショッピングモールに集合な!」 数時間後・・・シャツに薄手の黒いジャケット、グレーのチノパン姿で家を出る。 だいたい、クラスメートの男子2~3人で買い物したり食事をして、近くの総合アミューズメントパークでボーリングやカラオケするのがお決まりのパターンだ。 だから、今日もそんな感じだろうと思いながら待ち合わせしたフードコートに足を運ぶと・・・見慣れた顔のクラスメートの他にも、同じ高校の先輩や後輩の姿が見受けられる。 ロボット部の人たちや、バスケ部の皆もいるぞ? 偶然、こんなに学校の生徒が集まった・・・なんて事があるだろうか? 「よう、渉」 俺に声をかけてきたのは、電話をくれた友人の山形(やまがた)だった。 「山形、なんか見知った顔が沢山いるんだが・・・」 「いや~実はさ・・・渉、中学の同級生の葬式の翌日、休んだじゃん?で、次の日は誰とも話をしないで1人さっさと帰っちまったし・・・みんな、心配してたんだぜ?」 ETERNAL UNDERWORLDをプレイした翌日か・・・確かに、色々と考え事をしていたから人と話した記憶がほとんど無いな。 「で、渉が落ち込んでるみたいだから元気づけてやろうぜって話になったら・・・知らんうちにて訳よ」 「あ、渉君来てるやん!」 「山形、そういう事は逸速く報告しなさいよ」 「わ、渉君!元気ですかぁ?」 いつも一緒にいる三人娘を皮切りに、俺は沢山の友人、学友に囲まれていた。 あぁ、全然気づいてなかったんだな。 俺は純太の事ばかり考えて生活していて、父親さえもエトセトラ扱いしていたのに・・・こんなに沢山の仲間が俺の心配をしてくれている。 「皆、ありがとう・・・そして、ごめん」 「なんでそこ、謝るんだよ?」 「いや、心配かけたなって」 「てか、渉・・・ちょっと涙ぐんでる?無敵超人みたいなお前も、案外涙もろいんだな」 「からかうなよ、山形・・・でも、本当にありがとう」 パーティー会場さながらの賑わいの中、皆にお礼を言いながら回っていると・・・ジュンにどことなく似ている、境さんも居た。 そういえば、いつも話をしたそうにしていたな・・・この機会にこちらから声を掛けてみるか。 「あの、境さん」 「わ、渉先輩!?」 俺から声を掛けられると思っていなかったらしく、ずいぶんと驚いている様子だ。 いつも、声を掛けてくれてるのに無下にしてしまいすいません・・・そう言い掛けた、矢先だった。 これまで体験した事の無い冷たい視線を境さんの背後から感じ、恐る恐る顔を傾けて見た先には・・・純太のお母さんがいた。 俺が気づいた事に気がついた純太のお母さんは、そそくさと走り出す。 「ご、ごめん境さん!急用が・・・今度、ゆっくり話をしよう!」 「え!?は、はい!待ってますから!」 純太のお母さんを追いかけて行くと、立体駐車場に入っていき、車に乗り込もうと鍵をバッグから取り出そうとしていた。 「純太のお母さん!」 俺に呼び止められ、純太のお母さんはゆっくり振り向いた。 綺麗だった純太のお母さん・・・目の下には隈ができ、頬がこけてやつれている。憔悴(しょうすい)しきっている様子だ。 「渉君、元気そうね。ここには、偶然買い物に来たんだけど・・・話が聞こえてきて、見ていたわ。良かったね、心配してくれるお友達が沢山いて!純太には君しかいかなったけど、君には沢山、沢山お友達がいるから純太がいなくなってもへっちゃらだよね。私、お葬式に来てくれた君が、とても悲しそうにしていたから心配だったの。私たちみたいに、毎晩泣いて、苦しくて、切なくて・・・一歩間違えたら、後を追いそうなくらい寂しくて!そんな風になってるんじゃないかって・・・ごめんなさい・・・私、どうかしてる・・・ごめんなさい」 そう言って、純太のお母さんは車に乗り込み走り去って行った。 俺は何も言えなかった。 純太は、ジュンになって今も俺の側にいるから・・・もう、寂しくない。 純太のお母さんみたいな気持ちからは、既に解放されていた。 でも、分かるんだ・・・俺も純太のお母さんと同じだったから。 肩を落として、皆のところに戻ると境さんの姿は無かった。 「どうした、渉?急にいなくなって・・・なんか、顔色悪いぞ?」 「いや、何でも無い。それにしても腹が減ったな。さて、何を食べよう」 俺はこれ以上、山形たちを心配させないよう元気な振りをし笑顔を取り繕う。 「純太はジュンになってゲームの世界で元気にやってますよ!」なんて、言える訳も無い。 いつか、純太のお母さんやお父さんにジュンを会わせる事ができるのだろうか?
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