28人が本棚に入れています
本棚に追加
ネクロスのキョウカ
俺に気づいたペルシャ猫のアイルーロスが、サファイアブルーの瞳を向けて「にゃ~」と一声鳴いた。
「よう、クソガキ1号」
「こんにちは、ヘルメスさん・・・なんか、内装変わりましたね」
見渡すと、昨日までは無かった大きめな丸テーブルに対し、簡素な椅子が4脚置いてある。
それらが、全部で6セット。部屋の隅には、今まではどこからかヘルメスさんが持ってきていた扉のようなガッチャが2枚ずつ並んでいた。
着替えに使って良いと言われた空き部屋の隣にも扉があり、部屋が増えているようだ。
ヘルメスさんがいつもいるカウンターの後ろには、酒場のように飲み物が並んでいる。
「数日後には一般のクソガキどもがゲームをスタートするからな。それらしくしといたのさ」
思うに、事前登録ができたプレーヤーはネクロスと、その関係者だけのようだ。
「あ、ワルタ!遅いよぉ~!こっち、こっち!」
ジュンに呼ばれ、テーブルの方へ向かう。
椅子に座ってジュンと話をしていた人物が、立ち上がって振り向いた。
その拍子に、澄みきった川を連想させるようなサラサラした黒髪が揺れる。
「あの、初めてまして!私、キョウカと言います。宜しくお願い致します!」
目はタレ目の二重、瞳は黒、背は155程度、見た感じの年齢は15歳くらいか。
体型は細身、装いは紫スミレの髪飾りを右側につけており、フードがついた長袖、膝下丈のシスターが着ているような修道服風の藍色ワンピース。
装備は銀の胸当てに、銀の杖を手にしている。
可愛らしい女の子で、ジュンとは対照的なのだが・・・何となく雰囲気が似ている気がする。
「ワルタと言います。宜しくお願いします。見たところプレーヤーですよね?」
「あの、私も・・・ジュンさんと同じネクロスです」
なるほど、だから何となく雰囲気が似ている気がしたのか。
「キョウカさんは、お一人ですか?」
「あの、今は訳あって一人で行動してます」
キョウカさんと話していると、ジュンが割って入ってきた。
「キョウカちゃんは、クエストの依頼でここに来たんだよ!ワルタ、クエスト受けても良い?」
「待て待て、まずは内容を聞かせてくれよ」
クエストの内容は、夜になると山林地帯に現れる『ムーンスライム』から回復の初期魔法書を入手する。という内容だった。
「あの、近々、ジョブチェンジができるエリアが解放されるのでそれに向けて回復魔法を覚えておきたいんです」
「キョウカちゃんは回復職希望なんだって!でも、一人だと危ないじゃん?だからさぁ」
「ふむ。確かに、何かあったら死んでしまうからな。ちなみに、報酬は?」
「あの、手持ちの装備で銀の盾と銀の髪飾りがあるので、これでどうでしょうか?」
盾はちょうど欲しかった!髪飾りは、ジュンが装備できるし悪くないかな。
「すぐ報酬とか聞く~感じワルタだなぁ」
「大事だろ、報酬は!?サーチィさん、ムーンスライムのいるエリアの推奨レベルは?」
『7ですね。ジュンちゃんはさっき7に上がっているので問題無いかと。ワルタ君はあと少しで6になりますから、行けない事は無いかな?あとは、キョウカちゃんとパーティーを組んでステータスを見てみないと判断できませんね』
さっそく、キョウカさんとパーティーを組んでみると・・・レベルは9で俺たちより高かった。
『レベル9なら、問題無い・・・あれ?でも、ステータスの伸びがあまり無いですね。戦闘に参加してないのかしら?』
「キョウカさん、設定で初心者アシストONにしてもっても良いですか?」
「あ、はい。設定・・・ONにしました!」
『初めてまして、私はアシストのサーチィと言います!キョウカちゃんは戦闘にあまり参加してない感じですか?』
「あの、実はパートナーがほとんど一人で戦ってる感じです」
「え~!?それじゃ、ゲームとしてはつまんないじゃん!」
「あの、私を大切にしてくれてるからなんです・・・でも、今のままだと役に立たないから・・・」
「それで、回復職になる為にも今から回復魔法を覚えておきたい、という訳ですね。良し、行きましょう!」
俺にも少しキョウカさんの気持ちは理解できた。
これは協力してあげたい。
そんな訳で、俺たちは夜の山林地帯へ踏み込む。
「なんか、山林に入った途端に夜になったぞ?」
「骨の森も入ったら曇りになったから、エリア事に天候が決まってるのかもねぇ~さて、ムーンスライムとやらを探しに行きますか!」
いつもの袖をまくるような仕草をして、ジュンは右腕をあげる。
「ところで、ムーンスライムってどんなモンスター何ですか?」
『三日月型のスライムで、夜になると発光します。通常のスライムより動きが早く、体力もあるので舐めてかかると痛い目みますよ!』
道中、ちょこちょこ普通のスライムが現れて、倒しているうちに俺はレベル6になった。
「やっぱり、防御力と体力が多めに上がるな。攻撃力は少し上がったけど、素早さは全く変わってないぞ?」
「まぁ、ワルタは攻撃食らってばっかだしねぇ」
「あの、それでも個性がある方が良いと思います」
そんな話をしている矢先!茂みから、光りが漏れているのを発見した。
「おい、あそこ光ってるぞ?」
茂みを指差した瞬間、そこから飛び出してきたスライムに体当たりされ俺は後方に転倒!
「ぐわぁ!?普通のスライムじゃないな!?」
すぐに起き上がって見てみると、やはり三日月型のスライム・・・ムーンスライムだった!
「よし!食らえ、フローガ!」
ジュンはすぐさま火の玉で攻撃するが、俊敏なムーンスライムはそれをかわす。
そして、ジュンに向かって体当たりをかます!
「アン!?イタタ、体当たりの威力が普通のスライムと段違いだ!」
ちょっと色っぽい声で転倒したジュン・・・白いパンツが見えている。あ、前回は黒だったのに・・・パンツもどこかで売っているらしい。
おっと、そんな事を考えている場合じゃない!どうにかムーンスライムの動きを止めなければ!
最初のコメントを投稿しよう!