そして君はいなくなった

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そして君はいなくなった

放課後・・・読書をしながら、教室の窓から感じる5月の陽射しは暖かく、風はまだ少し肌寒い。 椅子にかけていた学生服の上着を着て窓を閉めようと思った矢先、眼鏡をかけた七三分けの先輩が俺に声を掛けてきた。 「(わたる)君!我が同好会が正式に部として活動する許可がでました!」 彼は3年生のロボット同好会の会長で、全国高等学校ロボット競技大会に出場する為に学校側に自分たちのロボットを見てもらっていた。 その結果、どうやら学校側が認めてくれたらしい。 「これも、全て渉君のおかげです!本当にありがとう!」 俺はそれを少しばかり手伝った。 「皆さんの努力あっての結果ですよ。おめでとうございます」 「・・・やはり、正式に入部は無理なのかい?」 「すいません、今は何より優先したいことがあるので」 少し肩を落とし、部長は去って行った。 さて、そろそろ帰るか・・・今度こそ窓を閉め、鞄を手にとった。矢先! 「オーイ!渉ゥー!こないだの練習試合、ありがとうなぁー!」 隣のクラスの丸刈りのバスケ部員から、声を掛けられた。 「あぁ、相手が弱かっただけだろ」 「いやいや、ウチのバスケ部は北高に勝ったこと無かったんだぜ?渉がいたから、勝てたんだよ」 「皆で頑張った結果だろ?俺1人の力じゃない」 「そうは言ってもなぁ~やっぱ、入部は無理か?」 「すまない、今は何より優先したいことがある」 「あ~キャプテンにどやされるなぁ。わかった、勧誘失敗って伝えとくよ!」 ふぅ・・・良し、今度こそ帰るぞ。 教室から出ようとすると、セーラー服を着た黒髪のショートツインテールの女子から声を掛けられた。 「私、1年の(さかい) もとこ と言います!あの、中学も同じで・・・」 少しタレ目の二重瞼で細身の可愛らしい女子だが、知らないな。 「ごめん、友達と約束があって急いでいるんだ」 俺は彼女の横を通りすぎ、教室から出て正面玄関へと急ぐ。 下駄箱を開けると、手紙が溢れ出したが・・・今はそれどころじゃない。 埋まっている靴を取り、学校を後にする。 そんな彼・・・『佐江(さえ) 渉』の後ろ姿を3人組の女子が見つめていた。 「ラブレター、完全にスルーされたぁ」 「無理でしょ。勉強、スポーツ、ルックスまで完全無欠なんだから。一般ピーポーなんて、相手にされないわよ」 「てか、あんた何通ラブレター書いてんねん?諦め悪いなぁ」 佐江 渉 身長178cm やせ形だが、しっかり筋肉がついている細マッチョ、テストは常に学年トップ、運動神経抜群、少し切れ長な二重瞼の黒い瞳、黒髪のマッシュヘア、鼻は高く、彫りは深すぎず薄すぎないバランスの良い顔立ち。 容姿端麗、頭脳明晰、おまけに家も裕福である。 そんな彼が急ぐ友達との約束・・・渉は家に帰るやいなや、すぐに自室に入り机に置かれたパソコンの電源をオンにする。 ふぅ、なんとか約束の時間に間に合った。普通に帰ると時間をもてあますし、色々な人に声をかけられるから教室で読書をしながら時間を調節したつもりだったが・・・危なかった。 モニターには、俺の親友『飯田(いいだ) 純太(じゅんた)』の顔が映し出された。 「おかえり、渉!今日は、学校どうだった?」 「ただいま、純太。それより、体調はどうだ?」 「ちょっと、質問を質問で返さないでよぉ」 あぁ・・・今日も純太は最高なんだが? 幼なじみの純太は、身長160cmで細身、目は少しつり上がり気味のパッチリ二重で瞳が大きく、鼻はそんなに高く無いが綺麗な形をしていて中性的な顔立ちをしている。 そのせいか、声も少し高くハスキーな女性のような声をしているのだが、それがまた良い。 髪と目は少し茶色く、髪は俺より少し長い。 性格は優しく、朗らか。俺にとってかけがえの無い存在だ。 お互いに今日の出来事を報告する。 「今日はね、血圧も安定してて熱も微熱程度だったよ」 純太は、都内の病院に入院している。 そして、現代医学では回復が見込めない難病にかかっており・・・死を目前にしていた。 笑顔で純太と会話しながら、俺は『神はいないな』とつくづく思う。 「渉、ボクの話聞いてた?」 「ん?あぁ、3Dオンラインゲームに事前登録しようって話だったよな。えっと・・・」 「ETERNAL UNDERWORLDね!」 「そうそう、それな。勿論、OKだ。どんなゲームか知らないが、純太が望むならなんでもするぞ!」 純太は、俺の言葉を聞き少し顔を赤らめた。 「女の子口説いてるみたいな台詞言うよねぇ~そうやって、いっぱい彼女作ってるんじゃないの?」 「バカ言え、学生の本分は勉学だ。恋愛なんてしてられないさ」 これは嘘では無い。俺にとって、純太と過ごす時間より大切なモノは無いからだ。 まぁ、それは純太に言えないが・・・それにしても、今日も天使だな。 「渉、約束してね。何があっても、必ずサービス開始当日にログインしてね?」 「わかってるよ。俺が純太との約束を破った事が今だかつてあったか?」 「うん、無いね・・・ちょっと、疲れてきたかな」 「そうだな、そろそろ終わりにしよう。また、明日な」 「うん!また、明日ね!」 リモートでのやり取りを終え、俺はベッドに横たわり天井を見つめる。 明日は誰にでも平等には来ない・・・何故、こんなに心優しい純太が17歳という若さで死ななければならないのだろう。 それから数日後、純太の両親から連絡が入り・・・純太がこの世を去ったと告げられた。 泣いても泣いても、涙は止まらなかった。 葬儀の翌日、学校を休み茫然自失で部屋の壁を見つめ続けていると、純太との思い出が走馬灯のように流れ出した。 「渉、約束してね。何があっても、必ずサービス開始当日にログインしてね?」 思い出したのは、純太との最後の約束。 スマホのアラームが鳴る・・・そうか、今日がのサービス開始日か。 もう、純太がいないのにやる意味なんて無い。 それでも、俺は泣き腫らした目を軽く擦り3Dマシンの電源をオンにして専用のゴーグル、グローブ、シューズを身につける。 「俺は・・・純太との約束は、破らない」
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