28人が本棚に入れています
本棚に追加
アイシテル
エディエスを下したワルタ達は、一度回復する為に安全地帯の学校へ戻る事にした。
「サーチィさん、可能であれば・・・お願いしたい事が」
『なんですか、あらたまって?』
「今も魔物化した人達やダークネクロスと交戦している仲間達がいると思うんですが、俺達もすぐに加勢に行けないのが現状なので・・・戦力を補充できればと」
ワルタとサーチィの会話を聞いたマキナが、嫌そうな顔で言う。
「それなら、またアカウントの凍結解除するぉ」
『まぁ・・・彼はマキナちゃんがピンチだと言えば駆けつけてくれるとは思いますが・・・』
「それと、もう一人・・・」
『それは、できるかどうかわかりませんが・・・検討してみます!』
「はい、お願いします!」
12:34
ステラとモナカ、モナカの母は火の手があがっているスーパーマーケットを見て一瞬、言葉を失っていた。
「・・・母さん」
ステラは二人を置いて、スーパーマーケットへと飛んで行く。
「ま、まってステラ!」
慌てて、モナカも母の手を引き駆け出した。
燃え盛るスーパーマーケットから、次々と人々が避難して行く。
「母さん・・・母さん!!」
ステラは人波をかき分け、スーパーマーケットの中に入る。
燃え盛る店内には、既に人の気配は無い。
荒れ果てた店内には黒焦げの死体が転がっている。
「火の手は、まだここまで来てないのに・・・なんで黒焦げに?それより、母さん・・・母さん!」
大声で呼ぶも、返事は無い。
「きっと、もう逃げたんだよね?無事なんだよね?」
自分に言い聞かせるように呟くステラ・・・スーパーマーケットから出ようとした、その時!
「だ、誰か・・・誰か助けてくれ!」
店の奥から、助けを求める男性の叫び声が聞こえた。
ステラはパーゴスで火を消しながら、奥へと進む。
すると、バックルームのすみに追い詰められた男がバフォメットに命乞いをしていた。
「た、たすけて!殺さないで!」
「ミテミヌフリスル、テンチョウ、ドウザイ」
「仕方ないじゃないか!店員なんてのは、お客様に逆らえないんだよ!わかってくれよ、長崎さん!」
店長の言葉を聞いたステラは、思わず「はぁ?」と声を漏らす。
声に気づいた店長がステラに助けを求める。
「あ、あんた助けてくれ!頼む、死にたくな・・・いぃやぁぁぁー!!」
バフォメットが放ったフローガが店長を黒焦げにした。
次なる獲物を探すように、バフォメットは赤い瞳をステラに向ける。
杖を構え、戦闘態勢に入るステラを見てバフォメットは震えながら声を出す。
「ス、テ、ラ?」
その声を聞き、ステラは涙を浮かべて首を横に振る。
「なんで、私の名前知ってんのよ・・・そんな訳無い・・・そんな訳無い!」
ステラは逃げるように、その場から走り去った。
店から出たステラは、息を切らしながら野外駐車場を歩き出す。
「ステラ!」
駆けつけたモナカが声をかけるが、ステラは過呼吸気味でその場に座り込む。
「どうしたの・・・お母さんは?」
その時、店からバフォメットが姿を現す。
「魔物!?」
構えるモナカをステラが怒鳴りつける。
「やめて!!」
ビクッと肩を震わし、モナカは今まで見たことの無い鬼気迫るステラの表情にたじろいだ。
「どうしたの、ステラちゃん?何があったの?」
モナカに代わり、モナカの母親が優しく声をかける。
ステラが答えるより先に店からこちらに歩み寄るバフォメットの聞き覚えがある声に、モナカとその母親はステラの心中を察する事となった。
「ス、テ、ラ・・・ステ、ラ」
ステラの名を呼びながら、ゆっくり近づくバフォメット・・・それが、ステラの母親の変わり果てた姿だという事は容易に想像できた。
「そんな・・・長崎さんなの?」
モナカの母の言葉にバフォメットは足を止める。
ステラは涙を溢れさせながら、魔物化した母親を見つめた。
「なんで・・・母さん」
「・・・ニクイ、ゼンブ、ニクイ」
心まで魔物と成りつつあるステラの母親は、目を赤く光らせモナカ達を睨み手をかざす。
「やめて・・・お願い、やめて!」
ステラの叫びは届く事無く、バフォメットはモナカ達にフローガを放つ!
「パーゴス!」
しかし、どこからか放たれた氷柱がそれを相殺した!
「大丈夫か?モナカ、ステラ!」
「こいつが、魔物化した人ってやつか」
助けに入ったのは、他でも無い望月とセンだった。
「モッチー・・・セン君・・・」
二人の名を力無く呼ぶモナカ、座り込んでいるステラ・・・戦う意思が感じられない二人にセンが問いかける。
「おい、しっかりしろ!魔物化した人は無差別に襲ってくる。やらなきゃやられるんだぞ!」
そう言って剣先をバフォメットへと向けるセンをステラは怒鳴り付ける。
「やめろ!母さんなんだよ、その魔物は・・・母さんなんだよ!」
ステラの言葉を聞き、センは構えた剣を下ろしそうになったが・・・歯を食い縛り構え直す。
「サーチィさん、聞こえますか?」
センは勿論、ダークネクロスの転移に巻き込まれた四人以外のプレーヤーは全員、サーチィとリンクしていた。
『はい!こちら、サーチィです。どうしましたか、センさん?』
「魔物化した人は、元に戻せますか?」
『・・・今は無理です。断言できませんが、ダークネクロスを倒せば恐らく魂が解放されるので後々、生き返せる可能は・・・あるかも知れません』
玉虫色の回答にセンは眉をしかめる。
サーチィの声が聞こえている望月は、そんなセンにかける言葉が無かった。
意を決して、センはサーチィの声が届いていないモナカとステラに言った。
「今、俺達はゲームの世界を運営してる神様とリンクして情報共有してる。魔物化した人は今すぐには無理だが倒せば後々、元に戻るそうだ」
「なら、倒さないと・・・元には戻せないの?」
モナカの言葉にセンは無言で頷く。
しかし、誰よりもセンを近くで見ていた双子の姉にはセンの虚偽は通用しなかった。
「セン・・・あんた・・・」
センは剣を構え、バフォメットへと近寄って行く。
「モッチー・・・援護、頼む」
「やめろ、セン!俺がやる・・・下がれ!」
センは望月の制止を振りきって、バフォメットに斬りかかる!
「・・・セ、ン、ベエ」
まだ、微かに意識が残っていたステラの母親は息子であるセンの名を呟く。
それを聞いたセンは剣から、手を離してしまった。
「・・・クソ、やっぱ無理だわ」
バフォメットはセンに向け、震える手をかざす。
「やめて、母さん!!」
ステラの叫びを聞いたバフォメットとなった母親は・・・自らの身体にフローガを放ち、炎に包まれた。
「やだよ、そんなのやだ・・・母さん!」
ステラが泣き叫ぶ中、人の心を僅かに取り戻したステラの母親が燃え盛る炎に身を焼かれながら二人に伝えようと口を開く。
「アイ、シテ・・・ル」
その言葉を聞き、センは燃え盛る炎の中に佇む母親に手を伸ばす。
「・・・母さん」
しかし、次の瞬間!巨大な氷柱がセンとステラの母親を貫いた。
スーパーマーケットの屋根からパーゴスを放ったのは・・・モナカとステラにとって、忘れたくても忘れられない恐怖を植えつけたあの男だった。
「何故、自分で自分を燃やしたんですかね・・・欠陥品でしょうか?」
長い銀髪を後ろ結いした銀縁の丸眼鏡をかけた目の細い青いローブ姿の青年・・・フォビー・ドゥーンは眼鏡のズレを人差し指で直しながら、首を傾げた。
最初のコメントを投稿しよう!