限界を超えて

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限界を超えて

「空と大地よ、共に凍りつけ・・・今、世界は絶対冷域に包まれる!」 フォビーが語り出すと、周囲に帯びたしい数の氷柱が現れセインに襲いかかる! 「あの時を上回る量!氷柱も小型では無く、パーゴス級の大きさ!!」 明らかに強化されているに対し、セインは足元が凍りつかないように駐車場に乗り捨てられている車の屋根に飛び移る。 しかし!もの凄いスピードで地面が凍りつき、車ごとセインの両足が膝まで凍りついた。 『不味い!皆さん、援護を・・・え!?』 時すでに遅く、望月、ステラ、センの三人は膝まで凍結し動けなくなっていた。 「なんだ、この魔法は!?つ、強すぎる!!」 望月が悲鳴にも似た叫びをあげる中、フォビーは最後の仕上げに入る。 「氷と大地の『融合魔法 氷の世界(ニヴルヘイム)』今度こそ私の勝ちです!!」 次の瞬間、更に出現した数多の氷柱が目を覚ました獣が牙を向いたかのように、鋭く大きく変化してセイン目掛けて降り注ぐ! 「うおおおおおおお!」 セインは両手の短刀を高速で振り、次々と襲いかかる氷柱を斬り続け直撃を防ぐ。 しかし、降り注ぐ氷柱の勢いはセインの高速斬撃すら上回った。 凍りついた両足は無惨に砕け、右脇腹と左肩は氷柱に貫かれ瀕死の重症を負う。 「う・・・」 「まだ、息があるんですか?今、止めを刺してあげますよ」 かなりの魔力を消耗したフォビーだったが、セインに止めを刺す魔力は十二分に残っていた。 「させるか!」 しかし、フォビーの前に望月とセンが立ち塞がる! ふと、フォビーが二人の足元をみると微かに燃えた後があった。 「ほう、彼女に炎の魔法を撃たせて強引に凍結を解除しましたか。ですが、貴方達は私の敵では無い」 人差し指をクイっとあげ、ガイア・ファングで望月の腕を貫く。 「ぐぁ!?」 更に、パーゴス・デルタでセンを攻撃する。 「く、そ・・・まだまだ!」 それでも倒れず、二人はフォビーに立ち向かう! 意識が朦朧とする中、セインは・・・暖かい光を浴びていた。 「回復・・・魔法・・・キョウカ?」 目を開けると一瞬、キョウカの顔が見えた・・・しかし、そこに居たのはモナカだった。 「凍結は状態異常・・・解除したら、もう一度回復魔法をかけます!」 かつて、自分と同じように恐怖のあまり仲間を置いて逃げたマキナがワルタから勇気を貰い戦線に復帰した姿を思い出したモナカは・・・偶然通りかかった安全地帯に戻ろうとしているプレーヤー達に母親を託し戻ってきた。 「キョウカさんのようにはいきませんが、私も戦わせて下さい!」 回復したセインは、手から落とした短刀を拾い上げ背を向けたままモナカに言う。 「ありがとう」 セインは再び、変速のスキルを発動させる。 『ステラさん、魔力を回復させ援護の準備を!』 サーチィの助言にステラは頷く。 「わかりました、それなら!」 ステラは戻ってきたモナカの元へ駆け寄る。 「よく、戻ってこれたね」 「ふふ、思ったより根性あるでしょ?」 「うん、見直したよ!私達に出来る事・・・最後までやりきろう!」 一矢報いる事もできず、倒れる望月とセンの間を一陣の風が吹き抜けた。 「良く耐えてくれた。後は任せろ」 「「セインさん!」」 まだ傷が癒えていないセインの身体から、斬り込む度に鮮血が宙を舞う。 しかし・・・その捨て身の攻撃も虚しく、尽く氷の盾に防がれてしまう。 「僧侶の娘が戻ってきたみたいですが・・・もう体力は限界、スキルもそれが最後でしょう?ダメージも残ったまま。この二人を犠牲にしてでも、回復だけはすべきでしたね。その甘さが、結果として彼女達も救えない結末へと繋がるんですよ」 そう言いながら、フォビーはガイア・ファングを連発する! しかし、それをギリギリで回避しセインは攻撃を続ける。 斬り、氷の盾が砕け散り、斬り、また氷の盾が砕け散る・・・その一連の動作が早すぎて、まるで二人の居る空間だけ雪が降っているように見えた。 「いつまで続ける気・・・」 ひゅっ・・・と、微かな風斬り音と共にフォビーの髪がヒラリと落ちる。 「今、私の髪を斬ったのか?」 風斬り音と共に、今度は首にかすり傷がついた。 「まさか、そんな・・・徐々に速くなっているのか!?」 超速、弾速、音速、光速・・・今、セインのスキルは最終段階を迎えようとしていた。 光の速さに達した時点で、もはやフォビーにも望月達にもセインの姿は残像さえも見えなくなっていた。 弾速より上の音速に達すると、セイン自身もスピードに耐えきれず体力を奪われてしまう。 故に、音速に達した段階で距離を取って仕切り直す方が効率的な立ち回りだとセインは考えていた。 しかし、もう後が無い現状を打破すべくセインは自分自身の限界を超え、光速に達したが・・・それでも、フォビーにかすり傷をつける事しかできない。 身体が悲鳴をあげ、意識がそうになる。 ここで俺が倒れたら、望月君達はどうなる? 俺がダレンに後れをとって救出された時、キョウカはどんな顔をしていた? あんな顔は、二度とさせない。 ワルタもジュンもマキナも、まだまだ子供だ・・・俺が居なくなったら誰があいつらを引っ張っていける? 三人娘も危なっかしくて見てられん。 ザレルとは手合わせの決着がついていない・・・そろそろ、分からせてやらなければ! 勝って、生きて帰る・・・まだまだやらなければならない事が沢山ある。 何より、キョウカを生き返らせなければ! ほとんど見えていなかったセインの視界が、急にモノトーンになり静止した画像のようになった。 なんだ・・・これは?まさか、スキルに耐えきれず・・・死んでしまったのか?身体がゆっくりとしか動かない・・・フォビーも望月君も動いていない。 だが、やることは一つだ。 水の中を動くように、セインはゆっくりフォビーに近づき右の短刀を一振、左の短刀を一振する。 その刃はフォビーをアルファベットのXを書くように斬り裂いた。 世界が色を取り戻すと同時に、セインは前のめりに倒れ・・・フォビーの両腕が宙を舞い、いつの間にか胸についたX字の深い斬り傷から大量の血が噴水のように吹き出す! 「ば、バカな・・・いつ、斬られた!?」 それはまるで、止まった時が動き出したかのようだった。 そう、セインが達した変速スキルの最終段階『神速』は止まった時の中で攻撃を可能にした。 『いまです!』 サーチィの掛け声と共にモナカとステラは炎と槍の融合魔法を撃つ! 「「炎の投げ槍(フローガ・ジャベリン)!!」」 深傷を負い、氷の盾も解除されたフォビーをフローガ・ジャベリンが貫く! 「ぐおぁぁぁぁぁぁ!!」 業炎に身を焼かれ、倒れたフォビーはセインを見つめる。 「まったく・・・やはり、貴方の方がよっぽどチーターですよ・・・まぁ、聞こえていないでしょうが・・・ね」 フォビーはそのまま燃え尽き、塵となって消えた。 モナカは、すぐさまセインに駆け寄り回復魔法をかける。 意識を取り戻したセインは、モナカに再び礼を言う。 「何度もすまない・・・ありがとう。望月君達にも、回復を」 「はい!」 何とか立ち上がろうとするセインだったが、意識は回復したものの身体の自由が利かない。 「セインさん、立てますか?」 そんなセインの元に、互いに肩を貸しあって望月とセンが歩み寄る。 「うむ・・・立てんな。傷は回復しているが、スキルの影響かも知れん」 望月とセンは各々、セインに手を差し伸べた。 セインは二人の手を取り、立ち上がる。 結局、身長差もあり望月とセンは肩を貸し合い歩き、セインは左右からモナカとステラに支えられながら歩き出す。 「なんだろう・・・何か、とても申し訳ない気分だ」 「そんな事、気にしないで下さい!」 「美女二人に支えられてるのがですか~?」 「自分で言うかよ、ステラ・・・」 「それより、さっきの・・・凄かったですね。目にも止まらぬスピードで斬り続け、最後は時が止まったみたいに気がついたらトドメのX斬りが炸裂してました!なんて言う技なんですか?」 望月は、ヒーローモノが好きなのでカッコ良い技に目が無い。 「いや、技名とかは無いな」 「そんな!?勿体無い・・・俺、名前つけて良いですか?鮮烈斬華とか、夢幻斬撃とかどうですか?」 「ちょっと、モッチー!セインさん、疲れてるんだよ?」 モナカに注意を促され、望月は申し訳無さそうに頭を下げる。 「いや、良いんだ。最初のやつ、気に入ったよ」 「鮮烈斬華ですね!?セインさんの飛び散る血と砕ける氷が華みたいで・・・」 「おい、モッチーいい加減にしろよ?」 「技名とか拘るの、悪い癖だよね~自分の技には名前無い癖に」 皆から注意され、望月は身を縮ませる。 「ハハハハハ、何だか君たちと居るとワルタ達と一緒にいるみたいな気になるな。そうだ、言い忘れるところだった・・・君たちが居なければ、勝てなかった。ありがとう」 セインの言葉に、望月達は胸を熱くし自然と涙を浮かべていた。 第十二章・・・終
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