伝えたい事

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伝えたい事

ショコの家を目前にして、マップ上の赤いマークが弓子達に近づいてきた。 「魔物化した人か、ダークネクロスが近づいてきているわ」 身構える三人の前に現れたのは・・・かつて戦ったダークネクロスの美青年クルスだった。 「クルス・・・あなたも復活していたのね」 「僕が渡した弓の残留思念の気配を追ってきました。また、会えて嬉しいです・・・弓子さん」 少し寂しそうな笑みを浮かべるクルスに対して、弓子を護るようにショコとテッコが前に出る。 「もう、二度と弓子をあなたの好きにはさせないんだからぁ!」 「ストーカー野郎、ウチの目が黒いうちは弓子に指一本触れさせんで!」 そんな二人を前に、クルスは満面の笑みを浮かべる。 「あなた達の友情は、相変わらずのようですね。ショコさん、テッコさん」 まったく敵意を感じさせないクルスに対して、ショコとテッコは眉をひそめる。 「何が目的で弓子の前に現れたんや?」 「少し、話がしたかっただけです。復活したダークネクロスは人間の魂を吸収しないと塵に戻ります。放っておいても、僕は消えます」 弓子はクルスを真っ直ぐ見つめ、問いかける。 「あなたは、人間の魂を吸収しないの?」 「やむを得ず、攻撃してきた警官を一人、手にかけてしまいましたが・・・正当防衛という事で、大目に見て貰えませんか?この世界に長いするつもりはありませんから」 「やっぱ、やっとるんやないか!」 「弓子、こんな人と話なんてする必要無いよ!」 弓子は尚もクルスを見つめ続けていた。 「・・・ショコ、テッコ。私も少しだけ、クルスと話がしたい。先に行ってもらえるかしら?」 弓子の言葉にショコとテッコは唖然とする。 「しょ、正気かいな!?コイツに何されたか忘れた訳や無いやろ?」 「悪いけど、いくら弓子の頼みでも・・・それは聞けないよ!」 食い下がる二人に弓子は申し訳なさそうに言う。 「理解できないかも知れないけど・・・私にとってクルスは初めて心を許した異性なの。悪人である事も分かってる。もしかして、また何か企んでいるかも知れない。でも、ショコがバルゴスを想うように、テッコがセインさんを想うように、私にとって、彼は特別な存在なの」 それは、いつもクールな弓子が初めてみせた顔だった。 納得いかない表情のまま、テッコは弓子に詰め寄る。 「どうなっても、知らんからな?」 「あら、そんなに心配してくれるんだ。テッコって実は私の事が大好きだったのね」 「こんな時に何言うてんねん!アホか?」 「はいはい、仲良く仲良く」 いつものようにショコに仲裁される様子を見ながら、クルスは膝をつき二人に向かって頭を下げる。 「ショコさん、テッコさん!誓って、弓子さんに危害を加えるような事はしません。ですから、ほんの少しだけ時間を下さい!」 ショコはそんなクルスを見て、流石に何も言えなくなる。 「そんなもん、信用できるか!まぁ、そうは言うても弓子は頑固やから、ウチらが言うても聞かんからな。もし、弓子に何かあったら・・・しばきたおすで?」 そう言い残し、ショコとテッコは二人を残して先へと進む。 「・・・すいません、弓子さん。無理を言って」 「まぁ、立ち話もなんだから近くの公園にでも行きましょう」 公園に向かいながら、弓子は物陰から襲いかかってきたワーウルフの頭を弓矢で射抜く。 クルスも弓子に近づこうとしたミノタウロスに剣を振るい、首をはね飛ばす。 「弓子も腕をあげたね。見違えたよ」 「今なら、一騎打ちでもあなたに勝てるかしら?」 「ブラックウインドの力を引き出せるなら、そうかも知れないね」 「あら、もっと凄いのもあるわよ」 「じゃあ、僕に勝ち目は無いね」 そう言いながら、クルスはブロンテ・デルタを身を隠していたバフォメットに放ち討ち滅ぼす。 弓子も飛びかかってきた三体のワーウルフを目にも止まらぬ速さで射ち抜いた。 「ベンチに座って、ゆっくりと・・・とは、いかないみたいね」 「多分、僕が裏切ると思ってマスターが魔物達をけしかけてるんじゃないかな?」 「あら、信用されてないのね」 「これでも、君たちに敗れるまでは従順にしていたんだけどね・・・そういえば、悪魔の騎士は?」 「色々あって、今は居ないわ」 「そうなんだね。それより、ブラックウインドの中に潜ませた残留思念の事を信じてくれてありがとう」 「罪滅ぼしさせてあげてるわ。それこそ、従順よ」 「それは羨ましい限りだ。僕も、どんな形であれ弓子さんの側にいられるのは嬉しいよ」 「それより、話って何なの?」 「・・・君を愛していると伝えたかった。それと、マスターに関する情報を」 「なんだか、「愛している」が霞むわね。マスターの情報を聞かせて」 クルスは弓子以外のプレーヤーに伝えたところで信用しては貰えないだろうと思い、弓子の元を訪れた。 それは、愛する弓子を死なせない為にも必要だと思っての判断だった。 「マスターはかつて神だった。しかし、今は人間・・・ネクロスと化している。理由は分からないが、彼女のレベルは1のままでフローガ一撃でも倒せるくらい弱い」 「当たれば、っていうのが気になるわね」 「知っているかも知れないが、マスターには常に最強級のダークネクロス二人と得体の知れない騎士二人が付き従っている。一人は天宮というレベル70の魔法使い。もう一人は久我山という、これもレベル70の影使い(シャドウサーバント)だ」 「影使い・・・聞いた事の無いジョブね」 「恐らく、僧侶系列のジョブだと思う。僕が知る限り、闇の魔法と回復魔法、そして影から分身を生み出したり攻撃を仕掛ける影魔法は攻防において隙が無い。もし、夜を向かえてしまったら・・・恐らく勝ち目は無いよ」 「貴重な情報、ありがとう。あとでサーチィさんを通して皆に共有するわ。じゃあ、あらためて最初の伝えたかった事の話に戻しましょう」 弓子に見つめられ、クルスは頬を赤くする。 「・・・愛してる。弓子と出逢えて、自分の弱さや愚かさに気づく事ができた。命を奪ってしまった彼女達に対しても、心から謝罪したいと・・・」 「このタイミングで、他の女の人の話はタブーじゃない?私は・・・結果的に、あなたと出逢えて良かったと思ってるわ。でも、この感情が愛かどうかは正直わからない。だから、私も愛しているとは言えないけど・・・死してなお、私の為に尽くしてくれているあなたに感謝しているわ」 弓子はクルスの手を握り、微笑みながら気持ちを伝える。 「ありがとう」 「・・・それで、十分だよ。こちらこそ、ありがとう」 握り合った手の指と指を絡めながら、自然と二人の顔が距離を詰めていく。 「あー!見つけたぞ、弓子!」 しかし、そこへ弓子を探していたパーサとビソンがやってきた! 「・・・今のタイミングで声をかけるのは、流石に不味かったんじゃないか。パーサ?」 「ん?」 良くわかっていないパーサはビソンの言葉に首を傾げる。 弓子とクルスは、慌てて手を離し武器を構えた。 「見覚えがある・・・確か、僕と同じくブラックシリーズの武器を渡されたダークネクロスだな?」 「私も覚えている。魔法剣士クルスだな。悪いが、私達は弓子と因縁がある。退()いて貰えるか?」 クルスはビソンの言葉に対し、フッと鼻で笑う。 「そうと知って、退くと思うか?弓子さんは僕の大切な人だ。それに、彼女にいてこまされてしまうからな。僕が相手になってやろう」 「ハハッ!おもしれぇ・・・じゃあ、2対2のタッグバトルと行こうじゃないか!」 楽しげに笑うパーサを弓子は普段通りに煽っていく。 「二人がかりで私に負け癖に、大丈夫なの?」 「問題無い。鍛えてきたからな・・・さぁ、始めようか」 弓子&クルスVSパーサ&ビソン・・・タッグバトルが始まる!
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