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レベルの違い
もう、ショコの家は目前・・・と、いうところで二人の名を呼び駆け寄ってくる人物がいた。
「ショコ姉ちゃーん!テッコ姉ちゃーん!」
「シャゲ、それにキリコちゃん!」
キリコはペコリと頭を下げる。
「サーチィさんにナビしてもらって、追いかけてきたんだよ!」
「グッドタイミンクやで!」
二人との合流をショコ以上に喜ぶテッコ。
「シャゲとキリコちゃんが一緒なら大丈夫やろ。ショコ、やっぱウチ・・・弓子が心配や。様子見てくる!」
テッコはショコ達と別れ、来た道を引き返して行った。
ETERNAL UNDERWORLDの対人戦において重要なのは何か?
キャラクターコントロール、知識、装備、スキル・・・どれも間違っていない。
しかし、最も重要なのはレベルによりステータスの差である。
このゲームは戦闘内容によりステータスが変化するので、同じジョブでも内容に個人差が生まれる。
基本的に同系列のジョブ同士の対戦であれば、レベル差があればあるほど、高い方が当然有利。
例えば、同じくらいのレベル同士の戦闘であれば致命傷にならない攻撃でも高いレベルの者が低いレベルの者へ攻撃した場合、回避するスピードや基本的な体力が足りなかったすると・・・一撃で敗北する事もある。
そして、パーサとビソンは本来ゲームには存在しないダークネクロスの獣戦士という戦士系列のジョブである。
魔法等は一切使えない代わりに基本的なステータスが高く、チートスキルで獣人化すると更に飛躍的に身体能力が高まる。
同じく獣人化するアカリの魔獣剣士とは異なる内容だが、戦闘能力だけを見れば非常に強力といえる。
クルスは魔法剣士なので系列的に戦士職・・・つまり、同系列となりレベル差によって生じる差が大きい。
故に、クルスが考えていたのは『いかにレベルの差を埋めて戦うか』だった。
クルスはフォビー・ドゥーンと違い、人間の魂を吸収してのレベル上げもマスターから新たなスキルを授かってもいない。
さて、正直言って僕の実力がどれだけ通用するか不安だな・・・恐らく、弓子さんは勿論、敵である彼女達とのレベル差も10近くあるだろう。
下手をすれば、一撃でやられる可能性もある。
「チートスキル、フルチェイン!」
雷を身に宿し物理攻撃を弾き、感電させるチートスキルを発動させるクルス。
パーサもビソンも、弓子のオーバーチェインと同じようなスキルだと判断した。
「私がやる」
ビソンは感電しようが構わないと考え、一撃で倒しにかかる!
身体を一回転させ、フレイルをフルスイング!
攻撃を止めようと矢を放つ弓子、しかし矢はパーサーに斬り落とされてしまう。
ムキムキと隆起した筋肉から成る圧倒的パワーから繰り出された一撃はスピードも凄まじい!
回転する動きを見てからだと回避は間に合わない・・・受けるしか無いか。
そう思いながら身構え、剣で攻撃を受け止めるクルス!
インパクトと同時に野球部バットに当たったボールのようにクルスの身体が宙まで吹っ飛ぶ。
「クルス!」
「華奢な色男にゃ受けきれないんだよ、ビソンのパワー攻撃は!」
クルスの身を案じる弓子、相棒であるビソンの豪腕っぷりを自慢げに言うパーサ。
更に跳躍して追撃しようと屈伸するビソンだったが・・・そこから身体が動かない。
「おいおい、身体が痺れて追撃できないのか?」
「・・・!?」
何故か深く腰を落としたまま動かないビソンに対して、空中で身を回転させ体勢を整えたクルスがブロンテ・デルタを放つ!
あれくらい、ビソンならかわせる。
そう確信していたパーサは弓子に集中する。
「グッ!!」
しかし、その背後でビソンが電撃を食らい声を漏らした。
思わず振り返りそうになったパーサだったが、弓子に隙を見せる訳にはいかない為、そのままビソンに問いかける。
「どうした!食い過ぎて動けないとかヤワ女子みたいな事、抜かすんじゃないだろうな?」
「まだ、腹七分目だ。それより、奴のスキルは弓子とは質が違うぞ」
「何が、どう・・・」
警戒態勢に入った二人から距離を取り、着地したクルスに弓子が声を掛ける。
「何をしたの?」
「大した事じゃないよ。あれだけ勢いのある攻撃は感電したくらいじゃ止まらないだろうから、電撃を足まで流して追撃できないようにしただけさ」
フルチェイン状態で相手から攻撃を受けた場合、電撃が流れ通常は触れた箇所が感電する。
それをクルスは操作し、感電するポイントを変えた。
「器用な事ができるのね」
「小細工くらいしか、能が無いからね。だが、残念ながら今の攻防は彼女・・・ビソンが一枚上手だったみたいだよ」
そう言いながら、クルスは手にしていた剣を弓子に見せる。
「・・・亀裂が入ってる」
「ブラックフレイルの能力は、武器破壊性能が高い事。次、受けたら武器を失う。それに・・・柄が長い気がする。もしかして、改良しているかも知れない」
弓子はバッグから稲妻のような形をした刀身の剣を取り出し、クルスに手渡す。
「なら、使って」
「雷神の剣・・・レア武器じゃないか。仲間に渡すか売るつもりだったんじゃ?」
「そう。だから、破壊されないでね」
二人がやり取りしている間に、ビソンもパーサーに何があったかを伝えていた。
「へぇ~感電する箇所を操作できるのか。そいつは厄介だな」
「だが奴はレベル不足だ。先に潰すのは、そう難しくは無い」
弓子が援護する陣形となり無数の矢と共にクルスが前に出る。
「なら、弓子の攻撃は私が斬り落とす。有言実行よろしくな」
パーサーは無数の矢を尽く斬り落とし、ビソンに道を作る。
同じ攻撃が通用するほど甘くはあるまい・・・それに、まだ弓子はオーバーチェインもジョブチェンジスキルも発動させていない。
温存したいのか、侮っているから知らんが今が好機だ。
そう考えたビソンは、武器の形状を変化させた!
フレイルは通常、柄とトゲ付の鉄球を鎖で繋いだ形状をしている。
その柄が、ジャラっという音と共に鎖で連結した形状となった。
中央の柄からは鎖で繋がれたトゲ付鉄球と下からは鎖で伸びた柄・・・パッと見た感じは短めの三節棍のように見える。
「メタモルフォーゼ・ヴァッフェ・・・ダブルチェインフレイル!」
ビソンは手数を増やす為、鍛冶屋のへパイスに頼み武器を改良していた。
再び身体を回転させながら、ビソンはクルスに攻撃を仕掛ける!
鉄球の一撃をかわしたクルスに、柄と鎖で連結した棍棒部分で更なる追撃!
鉄球よりは破壊力は無いハズ、剣で受けて電撃を流し動きを止める!
そう考えたクルスは棍棒部分の一撃を剣で受けた。
しかし、それと同時にビソンは武器から手を離しクルスの腹を蹴り上げる!
「!?」
予想外の連続攻撃に対して、クルスは何とか足に電撃を流したが身体は蹴りで宙へと飛ぶ。
しかし、ビソンは倒立し腕の力だけで宙へと飛び、クルスを追う!
「クルス!」
ビソンを射ち落とそうと弓を構える弓子にパーサーが斬りかかる!
「させないよ、アイツは終わりだ」
パーサの攻撃を回避する弓子は、カバーする事ができない!
空中で身体を縦回転させ、ビソンは痺れてた足でクルスの頭部に踵落としを食らわせる!
クルスの雷神の剣が手から落ち、地面に突き刺さる。
そして、地面に叩きつけられたクルスに向かってビソンが急降下!
「モード、バイソン!」
空中でスキルを発動させ、ビソンの身体がふた回りは大きくなり倒れたクルスに向かって両腕を突き出す!
「ぐはぁ!?」
強烈な蹴りからの空中回転踵落とし、からの急降下ダブルパンチはクルスに全体力を奪うには十二分の威力だった。
「・・・つ、強い」
クルスの身体は足元から塵になっていく。
パーサは一旦、弓子から距離を取り弓子は崩れゆくクルスへと駆け寄った。
「クルス!」
「すいません・・・僕では歯が立ちませんでした」
苦笑いを浮かべ、クルスは弓子に手を伸ばす。
その手を掴もうとした瞬間、クルスの身体は呆気なく塵となった。
「・・・ジョブチェンジスキル発動、月弓使い!」
ブラックウインドの形状が変化し、三日月型の弓となる。それと同時に弓子の身体が月明かりのような淡い光を放つ!
「月に照らされ、逝きなさい!」
怒りを露にする弓子に対して、パーサもモードパンサーを発動させる。
「ようやく本気かよ。さぁ、快くまで楽しもうか!」
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