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ギルドのヘルメス
「わぁ~建物もしっかり作り込んでるぅ~見て、ワルタ!花壇に花まであるよ!」
「人も沢山歩いてるな。でも、プレーヤーは少ないみたいな事を言ってなかったか?」
『町にいるのはNPCと言って、ゲームの世界に最初から住んでる人たちですよ』
なるほど、彼らから色々な情報を得て冒険していく感じだろうか?とりあえず、話しかけてみよう。
道行く、オカッパ髪のポッチャリした体型の青年に挨拶してみる。
「こんにちは」
「こんにちは、もしかして冒険者さんかい?」
『ワルタ君、ジュンちゃんは、この世界では冒険者と呼ばれます』
「なるほど、はい。俺たち、冒険者です。宜しくお願いします」
「礼儀正しいアンちゃんだな。気に入ったよ!ちょっと待ってな」
オカッパの青年は、家の中に入り何かを持って戻ってきた。
「魔法バッグだ。こいつは、見た目より沢山モノが入るから!アンちゃんにあげるよ」
「えぇ!?あ、ありがとうございます」
受け取れないと言いそうになったが、これは冒険には必需品だろう。
「へぇ~モブキャラなのに、随分と気前良いんだねぇ」
ジュンの何気無い一言を聞き、オカッパの青年は耳をピクッと動かす。
「おい、ネエちゃん・・・今、オラの事をモブって言ったか?」
次の瞬間、オカッパの青年が拳を地面に叩きつけた!
一瞬、大地が揺れて地面が隕石でも衝突したように陥没した・・・凄まじい威力に、俺もジュンも唖然としていた。
「し、失言でした。スイマセン」
ガタガタ震えながら、謝るジュンを見てオカッパの青年はニカッと笑う。
「素直に謝れるのは、偉ぇなぁ!どれ、オラのじっちゃんが採ってきた大根やろう」
『この世界にいるNPCは、一般のゲームと違い一人一人に個性があります。私とは違う運営が管理してるので詳しくはわかりませんが、このNPCはモブ扱いされるのが嫌みたいですね』
凄いな・・・本当にゲームと言うより、別世界みたいだ。
これから入ってくる一般プレーヤーがNPCにのされないか心配だな。
オカッパの青年と分かれ、町の奥へと進む。
『町の中央に冒険者ギルドがあります。ギルドとは、簡単に言うと組合みたいなものでギルドが提示しているクエストをこなすと報酬が得られます』
町の中央にある、大きな建物に入ると・・・え?なんか、この世界にミスマッチな人がカウンターに座ってるんですけど?
パンチパーマにヒョウ柄のエプロンをかけた、目付きの悪いおばちゃん!
いや、ファンタジー感が台無しじゃないか?
「おう、てめぇクソガキ・・・今、アタイの事を屁が臭そうだって思ったろ?」
しかも、全然検討違いな因縁つけられたー!?
今すぐ、ここから出て行きたいがゲームを進めなければならない以上、避けては通れない。
声を震わせながら、俺は答える。
「思って、ない、です」
「なら、なんて思った?何も思わないなんてこたぁねぇよなぁ?」
ジュン、助けーーーそう言いかけながら顔を向けたが、ダメだコイツ・・・明後日の方を向いてやがる。
時々、薄情な時があるんだよな・・・そこがまた、小動物っぽい純太らしくて可愛いんだが。
サーチィさんの声もしないことから、この場は自力でどうにかするしか無いらしい。
「ぱ、パンチパーマ似合ってるな、と」
「なんじゃとゴルあぁぁぁぁぁ!」
ひゃー間違ったかぁーNPCが皆、さっきのオカッパの青年みたいな最強村人系なら、このおばちゃんとか絶対ヤバいだろ。
「さっき、美容室行ったばっかりだから似合ってるか気になっとったわ。そうか、そうか、似合ってるか。よしよし」
おばちゃんの声に反応するように部屋の隅で何かが動く・・・あれはペルシャ猫?
白い毛の猫はトコトコ歩き出し、カウンターの上に乗り身体を丸めて寝そべり、サファイアブルーの美しい瞳でこちらを見つめる。
そして、アクビをひとつ。
それと同時におばちゃんが口を開く。
「アタイはギルドマスターの『ヘルメス』この子はアイルーロスだ、宜しくなクソガキども」
「ワルタです。宜しくお願いします」
「ジュンです。宜しくお願いします」
2人で会釈すると、ヘルメスは鼻をほじりながら話を続けた。
「ワルタ・・・随分と悪そうな名前じゃねぇか。ここには沢山のクエストがある。それをクリアすると報酬が出るって仕組みだ」
「えっと、報酬とは?」
「アイテム、マニー、ジュエル、希にエターナルコアの時もある」
「アイテムとマニーは分かりますが、ジュエルとエターナルコアが初耳です」
NPCと会話するのは、どうやら俺の役目のようだ。
ジュンはさっきので軽くビビったらしく、口をつぐんでいる。
「この世界で武器、防具を手に入れるには、マニーかジュエルを使って『ガッチャ』を回すのが手っ取り早い」
そう言いながら、ヘルメスは人差し指と中指を揃えて、こちらに向ける。何かのサインだろうか?
「マニーガッチャとジュエルガッチャじゃレアリティに違いがある。ジュエルガッチャの方が高性能な武器、防具を入手できると思えば良いさ」
なんか、ガッチャって言う度に例のサインを出すな。
「なるほど、まずはガッチャを回すのが序盤のポイントになるわけですね」
俺もヘルメスに習い、ガッチャと言う時に例のサインをしてみた。
「ほお~クソガキ、筋が良いじゃないか!気に入った、良いクエストを紹介してやんよ」
クエスト内容は、スケルトン及びスケルゴンの討伐となっている。
引き受けるだけで、1000マニー貰えるのか?クリア報酬は500ジュエル・・・確かに割りが良さそうだ。
推奨レベルは3~5か・・・もう少し、レベルを上げた方が良さそうだな。
「引き受けると町外れの道が解放され、骨の森に行き来できるようになる。やるかい、クソガキ?」
「どうする、ジュン?」
「せっかくのオススメだし、受けてみよ!」
「契約成立だな。破棄する場合は、ギルドの信頼度が下がりクエストの幅が狭まるからな。アタイの期待を裏切るんじゃないよ!」
マニーは返さなくて良いのか。なら、せっかくだしマニーガッチャを回したいな。
「マニーガッチャを回したい?待ってな、今すぐ用意するからよ」
ヘルメスにガッチャを回す方法を聞くと、店の奥に行ってしまった。ここでガッチャを回すのか?
戻ってきたヘルメスが持ってきたのは・・・ドアノブがついた長方形の茶色いデカイ箱だった。
「100マニーで1回、1000マニーなら10連できる。どうする、クソガキ?」
「じゃあ、10連で」
俺はヘルメスにマニーを渡し、ドアノブをガチャガチャ回した。
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