夏の終わり

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夏の終わり

陽が短くなってきた。 西日まであと少し。 チャイムの音に、クラスの友人たちからの、また明日ね、に返事を返す。 さよーなら。 ばいばい、と。 追いかけっこしながら、手を伸ばす。 共に廊下へ出て行く二人の背中はどう見える? 上靴を下駄箱に突っ込む指先はささくれだらけだ。 今日は何をしよう。 今日も何をしよう。 走り出せば、背景を引きちぎる勢いで季節は巡る。 笑顔を、泣き顔を、愛し合う場所を見つけることに夢中になることが、遊び。 惜しい時間たち。 足りないものを探す毎日。 見つける毎日。 唇を重ねて、温度に慣れて、求めあえる今を、いつかなくしてしまうかもしれないことに怯え合いながら。 「肌寒いね」 「月曜から衣替えだな」 「こんなに晴れてるのに」 「なあ、もうスカート短くしねえの」 「しねーよ」 「つまんねー」 舌打ちに、思いきり吹き出す。 そんなこと言いながら、気が向けばまたスカートを短くしてやってもいいかな、とほくそ笑む。 だって、私だって。 半袖から伸びる、日に焼けた腕が好きだった。 首筋に残る爪痕を眺めるのが好きだった。 冬になれば今度は、新しいお気に入りを見つけるふりして体を寄せるんだ。 カッコ悪いとこ晒し合うんだ。 バランスの悪い私たち。 可愛くておまぬけな私たち。 たくさん笑ってたくさん泣いて、いちいち驚いて、時には飽きて。 わけのわからない不気味で強大な敵、その名も青春とやらに、わかっていながらも振り回され、大人みたいなもの、になって行く。 魅力的な普通の日々。 いつか思い出になる日々。 まだオレンジになるには早い空に、黒い靄のような雲が幾つか浮かんでいる。 それでも私はもう平気なのだ。 降っても、降られても、どちらでも構わない。 ふわりとなびくふたりの前髪。 軽快にとびきりご機嫌に。 跳ねて、くるくるとまわる私。 ランララン、鼻歌に 浅見が「音痴」と、くしゃみするように笑った。 今の私は、雨の降らない日でも、私の為の傘を持っている。
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