スィーティーギア

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スィーティーギア

 結局のところ、その日は交渉を先送りにした。 満身創痍ではあったし、何より相手の実力が未知数なら下手に戦うのは得策ではない。 「全く、ペリドットのせいで今日の見回りが余計に大変だったわ。」 プリプリと怒るラピス。 「まーまー、大体、彼が敵かはまだ判断つかないんだからガーネットに任せるしかないでしょ。」 「…ガーネットも俺もおそらく同意見だと思うがな。」 渋い顔でペリドットが答える。 アジトに帰るとガーネットが満足そうに笑って出迎える。 「諸君、よく帰ってきてくれた。」 「なにがよく帰ってきてくれただよ。 お陰で酷い目にあった。」 散々だとペリドットが愚痴る。 「本当にね。誰かさんのせいでクソな成果しか得られなかったんだからね!」 ラピスはペリドットの脛を蹴ってどこかへかけていく。 「いてて…本当にアイツ!!」 「あー成る程。ラピスがあんなに怒るなんてよっぽどのことだな。 ペリドット、ルビー、報告頼めるか?」 呆れるガーネットの後を二人で歩く。 会議室のような場所に通されるとアメジストに喧嘩を売った男がコーヒーをすすりながら本を読んでいる。 「やあ、ペリドットに新人。 その様子じゃ収穫はなかったようだな。」 「うっせぇ、シトリンだってヘマした事数えきれねーほどあるだろ。」 悪態を吐きながらドカッと豪快にペリドットは椅子に座る。 「もう、行儀が悪いったらありゃしないわ。」 その様子を半目でラピスは呆れる。 「新人はともかく二人して収穫なしとはどうした? いつもはなにかとこぞって報告してくると言うのに。」 ガーネットの言葉に二人は顔を見合わせて黙り込む。 ここは仕方がない、アタシが一から説明するしかないか。 「探索途中、変な男に出会ったんです。」 一通り、ノイマンのことを話すとガーネットとシトリンは心当たりがあるらしく額の間に皺が寄っていく。 「…神造物か。 聞いたことがあるがずいぶん軽薄で仰々しいやつだな。」 シトリンのつぶやきに同意する様にガーネットも頷く。 「だが、皆が無事でよかった。 ペリドットは一応この後アメジストに見てもらえよ。」 「へーい。てか、何でシトリンは知ってるんだよ。」 ペリドットが聞き返すと苦虫を潰した様な顔で彼は口を開いた。 「昔、AIの奴隷エンジニアとして働かされていた時期があるんだ。 その時にまことしやかに噂されてたんだ。 神に創造された神子様だって。 鶫卿が宰相として表舞台に出ていた時だから数十年前か。」 衝撃的な事実に一同黙り込む。 憐れみを向けるとシトリンは苦笑いを浮かべる。 「そうか、だからそんなにストレスで爆食いして太ってしまったんだな。」 「奴隷根性のせいでお金に執着してしまったのね、可哀想に。」 「そんなしんみりしないでくれ…って! この体型は関係ない!金はいくらあっても困らないじゃないか!」 ヨヨヨと泣き真似をするペリドットとラピスに文句を言う。 だが、彼らに効果はない。 「えっと、その、どうして奴隷になって解放されたか聞いていいですか?」 「何だルビー。 AIの都市にパトロールに行ったら見無かったか? そこら辺に放置された死体や人骨を。 定期的に人が運営する村や集落を襲って攫ってくるんだよ。」 「何のためにですか?」 「昔はAIのメンテナンスや人力発電の為に子供が攫われていたんだ。 今はどうだか知らんが昔はよくあったよ。なあ、ガーネット。」 「ああ、俺もアメジストもシトリンも同郷出身でな、奴隷生活から叛逆して地下組織になったんだ。」 ガーネットの補足に納得する。 「マザーは初めてクーデターを起こした時に仲間になったな。」 「そしてこのラピちゃんはアリョーラ王国の姫君なのよ!」 えっへんと胸を張るラピス。 「まあ、王位継承権があるのはラズリの方だがラピスは発言力があるからな。」 ガーネットが笑っていると会議室の扉が開いてお茶を運びにきたラズリが穏やかな声でいう。 「みなさんお茶が入ったんで休憩しましょう。」 「おう、ラズリいつも悪いな。 今日のお茶請けは?」 顔が綻んでいるガーネットを初めて見た。 「はい、今日はチェリーパイです。 あ、新人さん、チェリーは苦手でしたか?」 申し訳なさそうに聞いてくる少年にアタシは言葉に詰まる。 ラピスの様なものをハキハキ伝えるタイプは扱いやすいがこういうなんかふわふわした手合いは何となく苦手だ。 「…別に、嫌いじゃ…ない。」 「良かったぁ! 紅茶がいいですか?コーヒーもありますよ!あ、どちらも苦手なら炭酸水もあります。」 手をぎゅっと握るラズリに目線を逸らす。 「コーヒー。」 ぶっきらぼうに言うと彼は張り切ってコーヒーポッドから並々と注ぐ。 「俺、炭酸水。」 「ラピちゃん、アイスティー。」 「今日はコーヒーで頼むよ。」 それぞれの注文を了承してニコニコと茶を淹れて配膳してくれる。 トゲトゲとしていた空気が一気に柔らかいものに変わっていく。 切り分けられたチェリーパイも艶々とした美味しそうなものだ。 「凄いだろ新人。 これはラズリの手作りなんだぜ。」 自慢げにいうペリドットに肘鉄を食らわすラピス。 「ふん、当然よ。ラピちゃんが仕込んだんだからね!」 そして和やかなお茶会は過ぎていく。   【Next to gear?】
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