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ギアプロテクト
ガーネットの後をついて行くとプロジェクターのある部屋に通される。
そこは長年使っていないらしく埃っぽく、薄暗かった。
木でできた椅子が机と共に並べてあり、まるで会議室もしくは小さな学童施設のようだ。
「ここで何をするつもりだ。」
ヘレンが尋ねるとガーネットはプロジェクターを起動させながら言う。
「ここの施設はギアノイドたちの領地になる前から存在していた。
このプロジェクターは旧時代のもので世界が滅んだ貴重な資料の一つだ。
よっと、起動できたな。」
鈍い起動音が部屋中に響き、映像が映し、出される。
そこにはタールのようなものが波となって人間を襲う様子や人間よりも禍々しい何かが人間の中から食い破るように生まれる様子が残っていた。
音は聞こえないが何かを訴えている女性や何か文字の書かれたカードを持った人。
映像が途中で止まり、ガーネットがこちらへ視線を向ける。
「この映像を見て何を感じた?」
彼の問いにヘレンは口籠る。
「黙ってちゃわかんねーだろ。」
ペリドットがヘレンの顔を覗き込む。
だが、彼女は先ほどの現実に目を背けようとする。
「あの、その…映画みたいで現実感が湧かないです。
ほら、だってそんな映像にもあった黒い津波が人間を飲み込んだとして今いる人間はギアノイドは何だって言うんですか。
我々が生きているって言うのにあんなことが本当にあっただなんて信じられません。」
言葉を絞り出すようにヘレンは訴える。
彼女の言うことは最もだとガーネットも首を縦に振る。
「カシラ、こいつ全然何もわかっちゃいねーよ。
やっぱり、殴ってでも現実解らせるしかねーって。」
ペリドットが殴りかかろうと拳を作るがそれをガーネットは許さない。
「暴力は辞めろと何度も言ってるはずだぞペリドット。
アーノルドが認めたと言うなら歓迎しないというのも規則に反するものだからな。」
そのやりとりにヘレンは疑問をぶつける。
「だいたい何なんですか!
アタシ、襲われて足と親父を奪われてギアノイドと足がドッキングされてていつのまにかここに連れて来られて…もうわけわかんない!」
癇癪を起こした彼女に男二人は顔を見合わせる。
「す、済まない。
てっきり、アーノルドが説明していたと思っていたから。」
コツコツと廊下を歩く音が聞こえる。
振り返ると戸が開いて優しそうな女性が入ってくる。
「ねぇ、こんなに可愛らしい女の子を大人の男二人がかりで寄ってたかってどうしようと言うのかしら?」
女性はヘレンの前へ出てペリドットとガーネットを威嚇する。
「ま、マザーパール。
誤解だ、俺たちはこの星の歴史と俺たちの目的を話すために連れてきたんだ。」
狼狽えるガーネットにバツの悪そうにペリドットも舌打ちをする。
「ねぇ、ペリちゃん。
いつも舌打ちを人前でしちゃダメって私言ってるわよね?」
笑顔のマザーパールだが完全に目が笑っていない。
「…ません。」
「へ?聞こえなかったわ。
最近耳の聞こえが悪くてねぇ。
いやね、歳かしら。」
嫌味を言う彼女にペリドットは顔を真っ青にして頭を下げる。
「すんませんでした!」
「はい、この話はこれで終わりね。
お嬢ちゃん、お腹は減ってない?眠くない?」
急に態度を変えて彼女はヘレンに甲斐甲斐しく声をかける。
「え、えと、飯は食べました。
混乱してるだけなんで…お構いなく。」
「まあまあ、目がとても綺麗なのね。
でもお顔が煤だらけだわ。
体を清潔にして休んでからでも話し合いはできるわ。
ペリちゃん、お湯を沸かしてきて。
ガーネットちゃん、子供たちのお古の服を探してきてちょうだい。」
「「サーイエッサー!!」」
二人は敬礼して作業に取り掛かる。
「あ、あの、そこまでしてもらわなくても。」
いきなりのことで涙も引っ込み、呆然となるヘレン。
「いいのよ。
こんなに小さいのに今までよく頑張ったわね。
お姉さんに甘えてもいいのよ。」
マザーパールはヘレンの頭を優しく撫でる。
(母親がいたらこんな感じなのかな。)
くすぐったい感情にされるがままだ。
「おふくろ!風呂沸かせてきた!」
しばらく、撫でられていると勢いよく扉が開いてペリドットが戻ってくる。
「ドアを開けるときはノックして静かにいつも言ってるでしょ?」
「はい。」
どうやらマザーパールはここの組織の中の誰も頭が上がらないらしい。
彼女に手を引かれて浴場に案内される道中。
「マザー!宿題終わったよ!」
「お母様、アドバイスもらっていた野菜の栽培の結果がこちらです。」
「パーちゃん、編み物教えて。」
と老若男女の組織の人達が彼女に頭を下げて感謝を述べたり、アドバイスを求めていたりする。
皆をマザーパールは片手で制して諭す。
「皆、私の耳は二つしかないの。
落ち着いて、それと相談ならこの子を寝かせてからにしてちょうだい。」
その言葉にみんな黙って道を開ける。
「ありがとう。
それじゃあ行きましょう。」
マザーパールの人徳か彼女の誠実さかはたまた、どちらもなのか解らないが彼女を怒らせてはならない。
そう言う暗黙の了解を悟るヘレンなのであった。
【Next to gear?】
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