アンダーギア

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

アンダーギア

 お風呂に入れられてそこら中を洗われる。 「ちょ、パールさん!そんなところは洗えますって!」 「あらあら、遠慮しなくていいのよ。 お母さんだと思って甘えちゃいなさい。」 彼女の豊満な胸に包まれて身動きが取れなくなる。 その間に恥ずかしいところまで洗われるヘレンなのであった。    なんとか風呂場から出て、清潔な下着や衣服に着替える。 「ごめんなさいね。ラピスちゃ…いえ、小さい子のお古しかなくて。 私のでもよかったけどその、ギアノイドのドッキング部分が骨盤だから裾の広いワンピースしかないの。」 仲間の名前だろうか? 何かを言いかけて止める彼女に少し違和感を覚えた。 確かに彼女は恐竜の様な大きな尻尾を持っているがそれが関係していたとは思いもよらなかった。 「マザー、ラピちゃんの髪留め知らない?」 脱衣所の戸がガラリと開かれる。 半裸だったヘレンは目を丸くし、固まる。 「もー、ラピスちゃん、部屋はノックしてから入りなさいっていつも注意してるわよね。」 「ごめーん、で、そいつが新人?」 生意気そうな青髪の少女が品定めをする様に見つめる。 「へー、中々いいギアノイド持ってんじゃん。」 少女をよくみると左半身が機械化されていることに気がつく。 「なっ、人として常識的に名乗らないのはどうなの?」 ヘレンは気がつき足を触る少女の手をはたき落とした。 「いった。あーあ、せっかく仲良くしてやろうと思ったんだけどなぁ。 君、ラピちゃんの嫌いなタイプだわ。」 ヘレンとラピスの間に火花が散る。 「こら!辞めなさい!」 二人を引き剥がすマザーパールに不満を垂れる。 「だってラピちゃんのマザー取ったのこいつだもん。」 「別に取ってないわ。 アタシはただ、名乗りなさいって言っただけ。」 二人の言い分はわかるがマザーも大人の女性として二人を正しい道に導かないといけない。 「ほら、二人ともごめんなさいは?」 「…ごめん。」 「ごめんなさい。」 謝った二人に気を良くしたマザーパールはにっこりと笑う。 「はい、よくできました。 それじゃあ今日はもう夜遅いから二人とも寝室に行くわよ。」 二人の肩を抱いて脱衣所を後にする。   *    一方でガーネットと他のメンツが集まっていた。 「なあ、やっぱりあいつを仲間にするのは反対だよ。」 ペリドットがガーネットの決定に意を唱える。 「金になるなら女でも男でも関係ないな。」 金髪の小太りな男が旧時代のコインを数えながら言う。 「なんだとシトリン。 喧嘩なら地上で受けて立つぞ。」 男の胸ぐらを掴むペリドット。 「辞めろ。こんなところで争っても何にもならない。 警備隊に見つかってみろ。肩身が狭い思いをするだけだ。」 ガーネットが二人の間に入る。 盛大な舌打ちの後、二人は席に戻る。 「取り敢えず、彼女はアーノルド自信がパートナーとして選んだ以上、俺たちが外すことはできない。」 自身のギアノイドを見つめる一同。 彼らは人間の体の一部として機能し、共存している。 「ねぇ、その女の子ってマザーが連れてた子で合ってる?」 紫の髪の中性的な顔立ちの女性が問いかける。 「ああ、その子だ。 名前はヘレン・アストリー。 適合はしているがコミュニケーションができていないらしい。」 ガーネットがレジュメを腕のギアノイドを使って情報を送信する。 「ふーん、面白い子じゃん。」 胸元のシャツのボタンを外して胸に埋め込まれたギアノイドを起動する。 『襍キ縺薙☆縺ェ繧』 胸元のギアノイドが文句を言う様に機械言葉を発する。 「ごめん、起こした? 情報共有だけさせて。」 涼しい顔して麗人は資料を眺める。 『陦?繧偵h縺薙○』 急にペリドットのヘッドギアが叫びを上げる。 「うおっ、急に起きるなよ。」 ペリドットもドン引きするくらいに暴れ回る。 「相変わらず騒がしいやつ。」 『縺昴≧繧医◎縺?h』 シトリンも呆れて自分の指をうっとりと見つめる。 彼の十本の指は全てギアノイド化している。 「夜も遅いから手短に明日のミーティングは大まかなもので終わるぞ。 明日は新人の洗礼式だ。 式典のため、時間厳守の遅刻厳禁だ。 特にペリドットとラズリには気を配ってくれ。以上、解散だ。」 「「「はい。」」」 ガーネットの指示に3人は了承し、部屋を後にする。 ヘレンの意思とは関係なく、数奇な運命は勝手に進んでいく。   *    深淵にて。 鶫頭の紳士は笑う。 「この地球を浄化しようとする動きがある様ですねぇ。 ええ、マキナ様。全てはメメント・モリの通りに進めますよ。」 虚空を見つめて彼は本を閉じる。 ギアノイド群に溶け込み、彼は消える。 彼がなにを考え、誰の意思に従っているのは誰にもわからない。 彼自身でさえもよくわかっていないのだ。 ギラギラと明るいギアノイドの都市は夜を照らす。 工業地帯から煙が上がり、青白い光を放つ。 まるでアトラクションの様な賑わいとかつての人類がそうだった様にギアノイドも人間の模倣の人生を送る。 これは皮肉なんだろうか? 人間が滅びの淵に立たされていると言うのにギアノイドも同じ道を辿ると言う皮肉。 誰が想像できただろうか。   【Next to gear?】
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!