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ギアエンゲージ
儀式とは言っても簡単なものだった。
剣の様にモンキーレンチをガーネットが構えてアタシの両肩に軽く当てる。
「ヘレン・アストリー。汝に洗礼の名を与える。」
厳かな雰囲気に一同は笑いを堪えながらも黙り込む。
ゴクリ、とアタシの喉もなる。
「古き名を捨ててアルカンディアの戦士としてルビーという名を授ける。顔を上げよ。」
言われるがまま、顔を上げると軽く額に軽くモンキーレンチを当てられる。
「あとこのパネルに手を。」
言い忘れたかの様に一枚の古びたファイバーグラスのデバイスを取り出してくる。
「何のために?」
「生体認証を取るためさ。
ここの施設に入るときにも活用するし、死んだときの識別にも使う。」
私という言葉にヘレンは眉をひそめる。
「死ぬ覚悟なんてさらさら無いんだけど。」
睨み上げるヘレンにガーネットは優しく諭す。
「今はそれでいい。
俺も昔はそうだったからな。
戦士としての自覚なんていつのまにかできてるものさ。」
遠い目をして彼は言う。
一同も目を伏せて加入時の記憶に思いを馳せる。
誰も彼も志高く戦っているわけでは無い。
苦楽を共にしてようやく戦士としてレジスタンスとしてギアノイドと共存しているのにすぎない。
「…わかった。」
渋々、彼女はファイバーグラスのデバイスの上に手を乗せる。
『生体認証、完了。登録名をどうぞ。』
無機質な音声が名乗れと急かす。
「ルビー。」
燃える様な赤髪の戦士、ルビーがその瞬間誕生したのであった。
*
ギアトピア中央地区。
ここには人間が国家統制のために作ったAIが君臨している。
その名はクワイエ。
彼は機械言語より人間の言語を敬意を持って重んじでいた。
『菴墓腐縲√ヲ繝・繝シ繝槭Φ縺ゥ繧ゅr驥取叛縺励↓縺吶k縲』
『蜉」遲臥ィョ繧?乾蛹夜Κ蜩√?豺俶アー縺輔l繧九∋縺阪□』
元老院のAIが口々にクワイエに意見する。
だが彼はうるさいと一喝する。
「人間が劣等種なわけなかろう。
我々を創造し、メンテナンスする技術がある。
我々は人間の様に同種を生み出す能力はない。
経年劣化で同胞を無くした事を同志諸君らも忘れはしまいだろう?」
その言葉に元老院AIは黙り込む。
彼の振る舞いはまるで人間の様だが機械的な考えが見え隠れする。
「話にならないな。
ノイマンと話をしていた方がまだ有意義だ。」
『縺セ縲√∪縺ヲ縲∬ゥア縺怜粋縺?r縺励m』
喚く元老院AIを強制的にシャットダウンさせる。
そしてクワイエは培養ポッドを起動させる。
その中には中世的な少年が眠っていた。
「ふぁーあ、なんだいクワイエ。
ボクを起こすってことはよほど退屈してたのかな?」
裸体のまま、彼は培養ポッドから這い出る。
「嗚呼、察しが早くて助かるよノイマン。
全く、近頃の元老院達は驕り高ぶっているから敵わん。」
怒りを表現しているのか彼は音量が上がる。
「あはは、クワイエらしいや。
それで今日はなにについての議論がしたいんだい?」
そう聞かれてクワイエはため息混じりにいう。
「君たちクローン人間にはわからないかもしれんが生物類達の未来についてだ。
我々ギアノイドは知識や技術は確かにある。
だが、人間や動物の様に子孫を産み出すという機能がない。
つまり、生物としての未来が見えないんだ。
人間がいなきゃ我々はいずれ、経年劣化を迎えることだろう。
それは生物類にとっての死と同義だ。」
機械生命の死を恐れるクワイエはある意味、人間に近しいのではないかとノイマンは静かに見守る。
「君が死に怯えるのはなんとなく分かる。だが、それは機械の生命としての可能性を閉ざしてるとは思わないかい?」
彼の言葉に一条の光を見出す。
「確かに、それは人間的に言えば目から鱗だな。
彼等と共存の道を考えて見ても活路を見出せるかもしれない。ありがとうノイマン。」
その言葉に彼は破顔する。
「気づけたようで何よりだよ。
久しぶりに目覚めたから街の様子を見たいからこのまま出てもいいかい?」
「…別にいいが君、裸のままで市中を闊歩するのはやめろと前に忠告した筈だが覚えてないのかい?」
あくまで諭す様に言えば人間の子供の様に口を尖らせてノイマンは反論する。
「別にボクは人類じゃないし服を着るというモラルはこのギアトピアには存在しないだろう?」
「それもそうだが…友人として羞恥を覚えるんだその格好は。」
困った様にクワイエがいうのでノイマンは渋々その辺にあったシーツをまとう。
ただの布切れが彼に掛かれば神話に出てくる神の様な服装になる。
「これなら文句ないだろう?
じゃ、ボクはもう行くから。」
壁を蹴破り、そこから飛び降りるノイマン。
「やれやれ、友人にドアから出入りする事を学習させてあげないといけない様だ。」
痛覚は無いはずのクワイエが何となく自分の回路が痛むと頭を抱えるのであった。
【Next to gear?】
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