ギアチェンジ

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

ギアチェンジ

 世界が一巡し、再生が始まる。 その最中、二つの生命が産声を上げた。 一つは従来の人類を始めとする動物生命体。 もう一つは金属に命が宿った機械生命体。 通称『ギアノイド』。 人類と姿形はほぼ変わらないのだが、動物生命体より優れた知性を有する為、迫害の対象となってしまう。 各地で人類とギアノイドの紛争が絶えない時代。 そんな黎明の時代に生まれた少女一人。 「親父ぃー!肉もらってきたぞー! 合成肉じゃねぇ!久々の鶏肉ダァー!」 赤毛・碧眼・八重歯という勝気な娘が生きのいい鶏を片手に掘建小屋へと帰還する。 「さけばねぇでも聞こえてるっつーの。」 ヘッドギアをつけた初老の男が作業中の手を止めて返事をする。 振り向けば自信満々の少女が目の前にいた。 「ほら、ほら、親父!生きた鳥!しかも鶏だぞに・わ・と・り!!」 コケーっと鶏が悲鳴を上げて翼をはためかせる。 「こらこら、締めておけっていつも言ってるだろ。 うえっ、ペッペッ。口ん中に羽が入った。 さっさと処理しろ処理。 作業所に動物を持ち込むなって何度言ったらわかるんだ馬鹿者!」 厄介払いのように親父と呼ばれた男性は彼女を追い払う。 「ちぇー少しは褒めてくれるって思ってたのに。 ここ最近合成の肉ばかりで物たりねぇって思ってたのになぁ。」 少女は勝手口から台所へ入り、鶏を締める。 まず最初に羽をむしるためのお湯を沸かす。 その間に鶏の首を落とし、逆さずりにする。 こうする事で血抜きができる。 しばらく羽が羽ばたく音が騒がしいが命をいただくためなら手段は選ばない。 お湯が沸騰する寸で火を止めて鶏の胴体を突っ込む。 出し入れを何回か繰り返していくと関節が硬くなってくる。 (この瞬間が何とも言えないんだよな…。) 命の重さをしみじみ感じ、彼女は淡々と鳥の羽をむしる。 その後、ガスバーナーで羽を全て焼き終え、丁寧に捌いていく。 人類はギアノイドを迫害し、逆に便利な機械のほとんどを失った。 今残っているのは旧時代、地下から噴き出た暗黒物質に包まれた時代の名残の機械である。 (まあ、またギアノイドに化けて奪ってこればいいんだけどな。) 少女の手に持っているガスバーナーもギアノイドの街から盗んだ物だ。 自給自足の暮らしをしている人類とハイテクノロジーを享受してるギアノイド達。 互いに敵だと認識し、表向きは不可侵条約を結んだが各地で紛争や犯罪は多々あるのは事実。 「親父〜今日は何がいい? 煮込み?焼き?」 ひょっこり勝手口から覗くと大きな背中にほくそ笑む。 また夢中になってギアノイドからかっぱらってきた機械を弄っているのだろう。 「おーやーじー! 飯はどうする…。」 鳥を捌き終えて作業事務所に入るがグラリとその背中が力なく倒れた。 「親父!どうした! 何があった?!」 揺り起こすと彼の腹には大きな穴が開いており、内臓が全て無くなっていた。 「ひ、な、何でだよ! 何で親父が!!」 混乱し、取り乱す少女。 作業台にあったモンキーレンチを手に後ずさる。 「で、出て来い! よくも親父を!ぶち殺してやる!」 そう叫んだ瞬間、油缶の中から水銀の様なものがドロドロと漏れ出す。 それは人の形を成し、少女を見下ろす。 「へ、へへ、こ、怖くねぇ! それで脅しのつもりか!」 屁っ放り腰で手と声は震え、それでも闘争心は失わず彼女は武器を構える。 『繧「繝シ繝弱Ν繝峨?縺ゥ縺薙↓縺?k』 水銀の化物は言葉にならない電子音を鳴らし、彼女に近づいていく。 「くっ、来るなぁ!」 モンキーレンチをフルスイングしたら偶然何かに当たってガギン!と鈍い音が響く! その瞬間、水銀の化物はひるみ、地にドロドロと溶け出す。 今だ!と足をもつれさせながら逃げる。 掘建小屋から出て少女は大声で助けを呼ぶ。 「おうい!誰かー!助けてくれー! ギアノイドに襲われてる!」 その叫びも虚しく響く。 何かにつまずいて足を止める。 「ひっ!」 暗がりで見えにくいがよく見るとそれは人の頭部だった。 時間が経っているのか切り口は腐りかけていて血も乾いているようだ。 襲ってきたギアノイドは地を這い、少女の両足を拘束する。 「や、やだ!離せ!」 蹴ろうとするが何もできない。 瞬間、ブチブチと嫌な音と共に鋭い痛みが彼女を襲う! 「ぎゃあああああ!」 あまりの痛みに悶え、苦しむが誰も助けには来ない。 痛みに意識が途切れかけた瞬間。 何かが水銀に飛びかかり、解放される。 『陬丞?繧願??a?』 『縺昴▲縺。縺悟享謇九↓豼。繧瑚。」繧堤捩縺帙※繧ケ繧ッ繝ゥ繝??縺ォ縺励h縺?→縺励※縺阪◆繧薙□繧阪?』 何かを話してるようだがちっともわからない。 だが、飛び込んできた謎の影が少女を守るように水銀と争うのを見て彼女は気を失った。 その影と少女が一生のバディとなるのはまだ誰も知らない。   【next to gear】
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!