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人喰いジャスミン
「人喰いドレスぅ!?」
店長が言った言葉を、ついつい私は鸚鵡返ししてしまった。
このレンタルドレスの店で働き始めて三か月。返ってきた一着のドレスを見て、店長がぼやいたのがきっかけである。
「大きな声で言わないで頂戴よ。あたしだって、こんな噂が立って不名誉だと思ってるんだから」
はあ、と。恰幅の良い中年の彼女は、その赤いドレスにビニールを被せながら言った。クリニーングに出すためである。
「綺麗なパーティドレスでしょ?それなのに、この一着にだけ妙な噂がついちゃって困ってるのよ。実際、これを着て亡くなった方がたくさんいるのも事実だからどうしようもなくてね」
「え、人が死んでるドレスをずっとお店に出し続けてるんですか?演技悪いっていうか、汚れもつきそうなんですが」
「そ。毎回クリーニングも馬鹿にならないのよ。でも、うち小さなお店だからそうそう何着も新しいドレス買えないし?そもそも、妙に人気のドレスだから下げることもできなくてね……」
「人気?」
私はついつい、身を乗り出してしまう。閉店後のこの時間、本当はフロアの掃除をひとしきり終わらせなければいけないし、終わらなければ帰れないはずなのだが。ついつい、彼女の話に興味を持ってしまったためだ。
高校時代はミステリー研究会に所属し、女子大に入ってからもオカルトを専門としたサークルに入っているくらい、ミステリー&ホラーに興味がある私である。バイト先で、まさかこんな面白そうな話が聴けるとは思ってもみなかった。
まあ、店長からすると不謹慎以外の何物でもないかもしれないが。
「私、そういうの結構サークルとかで調べてますし、推理とか得意ですし!ちょっとお役に立てるかもしれませんよ。詳しく話してみません?」
顔がにやつかないように気を付けつつ話しかければ。店長は“そうねえ”とため息をついて言ったのだった。
「元々このドレス、オーダーメイドだったのよね。ほら、サイズがちょっと大きめじゃない?最近は長身の女性も多いもんだから」
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