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ため息はどこにも届かず、問いに答えるものはいない。
「そういえばさー」
だから。その言葉が自分に向けられたものだとは、師堂玲美は最初気がつかなかった。
英文法の授業を終えた昼休み。いつも通り絶妙の孤独の中でお弁当を食べていた彼女に、不意にかけられた声。
「師堂さん家って、間枝公園のそばだっけ?」
「え?」
プチトマトをつまもうと悪戦苦闘していた箸をとめ、師堂玲美は声のした右側を見た。早々に食べ終わったお弁当の包みを結びながら、顔だけこちらに向けているクラスメート。ええと、この子は……そうだ、たしか海野さんだ。仲のいい子はさっちんって呼んでた。
「ええっと、うん、市営団地だから。小学校の側だけど……わかる?」
「ああ、うん、だいたい。そっか、じゃあちょっと違うのかな」
と、海野さん。首をかしげる師堂玲美に、もう一人の女生徒――確か照山さん、愛称はもっちゃん、といった――が言う。
「知らないかな、噂。最近、出るらしいって」
「出る?」
「これ」
照山さんは胸の前に両手をたらしてみせる。
「もっちゃん、今時それはないわー」と海野さんは笑う。
確かに随分古典的なジェスチャーだな、と思いつつ、
「これ、って……オバケ?」
「うーん、まあ、一応、そんな感じの……でもちょっと違うかなあ」
「?」
「反対側。っていうか、駐車場の方なんだけど」
照山さんが話しはじめる。
「夕方にね、なんか、変なものを見た人がいるって。二組の男子。サッカー部の。あと一年のマネージャー」
「何で夕方かって言うと練習が休みだったからで、じゃあ何で二人がそこにいたかっていうと、それはご想像にお任せします、ってやつなんだけどさ」
海野さんがあとを引き継ぐ。
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