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あぁ。何だあれ。
宗教画と変なモニュメントだ。
可愛げのない。つまんない。
鐘と鈴とトランジスタの唸り声。
柱状になって光沢を放つ謎のオブジェ。
中は空洞になっているようで
水の流れる音が静かに響いている。
この空間は明らかに変だった。
うーん。扉も窓もない。
そのうえ空調もないから暑い。
反して外装は何の色もない純白だ。
なんとも形容し難い気色の悪い空間。
私の身長くらいの丸い時計が置いてあった。
それには針しかなかった。
それも白かった。
しかし薄汚れており、欠けていた。
フレームに読みにくいが字が書いてある。
英語か?それともフランス語?
「私は渇く」
なんと!日本語だった。
それにしても無機質極まりない。
部屋の角には中世を思わせる石像。
ゴシックだかヘレニズムだか知らんが。
やけに錆による劣化が酷い。
でも石なのに錆というのも変だな。
ま。今頃そんなこと気にしても。
石像はところどころ削れていた。
片手には剣を持ち、自らの胸に当てている。
もう片手は女性の石像を支えていた。
翻るマントと強調された肋骨が美しい。
これがヒーローか。
前の空間には居なかったが。
私は死んだのか。そうではないだろう。
こんなにも暑いんだから。
こんなにも疲れているんだから。
こんなにも、こんなにも寂しいんだから。
扉は。ないのか。
その扉は装飾だ。分かってる。
分かってはいるが。
剣を置かねばならんのは私のようだ。
警報が鳴る。
耳を澄ませるとそれは。
それは歌声だ。
天使の声。賛美歌。最後の賛美歌。
こんなにも悲しいのか。
こんなにも静かなのか。
終わりだから。これが結末だから。
瞬き一回の間に全ては粉々になった。
溶けたのだ。
石像もオブジェも宗教画も。
空間は溶けてなくなった。
扉は開いたのか?
いや、分からない。
それはもうない。
足元を見る。
それはもうないのだ。
でも泣かないで。
最初から無かったんだよ。
これが普通なんだよ。本質なんだ。
モノが透けてみえる。
モノもないのに。透けてみえるんだ。
暑さもない。
私の肢体や手元すら無くなった。
私はそれになっていた。
私は全てだった。最初から。
あまりにも形而上的で前衛的で
何か意味があるのではと考えてしまう。
しかし、そんな観念すらもう無い。
私はそれであった。
私はそれであった。
次第に境目も消えたようだ。
区別が遂に無くなった。
成分や属性、それである割合すら。
私という言葉すら間違いなのかも。
全てが分解され、収束され。
ジリリという音で起きる。
目覚まし時計は7:30に設定していた。
母は気持ちの良い音で弁当を作る。
私のために。
学校は憂鬱だが、繰り返しであった。
平坦で水平線のように均一で。
起伏といえば試験くらいである。
叱責が怖いだけなのかもしれないが。
こんな劇場は永遠ではない。
嘘を言っているのではない。
読者様。見ていますでしょうか。
エブリスタはいかがですか?
これは舞台です。
回っています。
回るのは疲れます。
私は"私"ですが、全てです。
私の名前は恐怖と神聖。
私の名前は美しい女性。
私の名前は針と時計の虚構。
私の名前は一冊の本。
私の名前は、私は言葉です。
その全ての表現技法あるいは演出です。
滑稽でしょうか。
私はそうは思いませんね。
何故なら起伏のために用意されましたから。
感情だけではないですよ。勿論。
起伏は変化のことです。
とどのつまり人間のために、です。
連続性の話はしてませんよ。
私は無機質な線、音、感触、匂いです。
それ以外の場合もありますが。
全てであると同時に何にでも無いのです。
そろそろ飽きましたか?
もう飽きてる?
読んでないですか?
寂しいですが、私はずっとここに居ます。
会いに来てくださいね。
ずっと同じ空間、螺旋に居るのです。
そこにはポストがあります。
つまり何も無いってことです。
私はあなたでもあります。
さようならを言えなくなる時まで。
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