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グランド
「よくグランドに顔を出せるよな」
「ああ、俺達の甲子園への道をぶち壊したくせに……」心無い部員の声が聞こえてくる。もちろん、こんな事を言う奴らばかりではなく俺の体を気遣ってくれる部員もいる。
「大丈夫か?無理しないで休んでればいいぞ。球拾いなんて1年生にやらせるから」主将が心配してくれる。
「ありがとうございます。でも、家にいるより落ち着くんです。やらせてください」家はあの事故以来陰気な感じで、まるで針の筵であった。親父の態度に母も呆れてしまい二人は会話をしなくなってしまったのだった。
「しかし、なんだな……、このチームは本当にお前におんぶで抱っこだったから、浩之が抜けてからは一勝も出来てない。情けない話だ。よくこんな実力で甲子園なんて言ってたものだ」半分呆れた感じで主将が苦笑いした。たしかに、この野球部は実力的には上の下といったところで攻撃力も乏しく、点数も俺のバッティングに頼っていた。一縷の望みをかけて、打者専門への転向も試みたが、右肩を故障した事によりバットをまともに振る事は出来なかった。飛んできた球を左手のグローブでキャッチして、右手で転がして返す。今はこれが精一杯であった。
「先輩、俺達がやりますから無理しないでください」俺が取り逃した球を拾った1年生がオーバースローで、硬球を返した。その勢いを見て羨ましい気持ちと妬ましい気持ちが交差した。彼には悪意はないのであろうが、なぜか見下されたような敗北感を覚えた。
「ありがとう……」なんだか、ここに居る事が場違いのように思えてきた。
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