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屋上
屋上に向かうとタモツの姿が見えた。
手摺に頬杖をついて遠くを見ている。日差しが彼女の白い肌を少しだけ眩しく照らす。
「や、やあ」俺は少し照れながら声を掛けた。
「あ、浩之君!待ちくたびれたぞ」少し可愛く頬を膨らませた。俺の診察の時間が遅れて30分ほど遅れたのだった。
「ごめん、でもLINEにメッセージ送った筈だけど」画面を確認する。やはり既読になっていた。
「冗談よ。私もさっき来たばっかり」薔薇の花が開くような可愛い笑顔を見せた。
「ビックリしたよ……」
「ごめん」ウインクしながら軽く舌を出す。テヘペロ?
「具合はどうなの」
「ええ、私は大丈夫よ。もうすぐ退院できるかも……」
「そうなんだ!良かったな」俺は心底喜んだ。
「浩之君の肩のほうは、どうなの?」
「うん、日常生活に支障は無いぐらいに回復するだろうけど、速球を投げたり強い衝撃には耐えられないだろうって……、やっぱり野球は難しいってさ」彼女に辛い顔を見せるのは嫌だったので、空元気で返答した。
「そうか……、でも頑張れば良くなるかもしれないし、こんな事を言うと何だけど……、野球が全てじゃないからね」いや、俺には野球が全てだった。
「ありがとう……」気持ちを押し殺して、感謝を口にする。
「ねえ、あっちに座らない?」ずっと立っているのも辛いのであろう。古くなったベンチを指差した。軽く頷いてから、一緒に腰掛けた。
他愛のない会話が続く。ただ、この時間が今の俺にとっては、癒しの時であった。
「本当に病院って退屈なのよ。浩之君と話をしている時は一番楽しいわ」自分の気持ちを隠さない彼女にドンドン惹かれていく自分の気持ちを自覚していく。
「タモツさん、退院したら……、俺と……、デートしてくれないか?」なんだか告白でもするような気持ちであった。
「えっ……、どうしようかな……、なーんて、いいよ!退院したらデートしよ!」そう言うと、彼女は俺の頬に軽くキスをした。
「……!?」唐突の行動に俺の体はフリーズしてしまった。
「それじゃあ、私は病室に戻るね!」タモツは恥ずかしそうに微笑むと手を振りながら、屋上を後にしていった。
俺は、魂を抜かれたようにしぱらく屋上から動けなくなってしまった。
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