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電車
朝、いつものように学校へ向かう。野球部の朝練は参加していない。その代わり、少し早めに起きて家の近くをランニングすることが日課となっていた。この時間はクラブに所属していない、もしくは文化系の部活の生徒が多い。改札に定期券をかざしてホームに入る。俺の学校は男子校なので必然的に、乗る電車も男だらけの汗臭い。対する反対方向へ向かう電車のホームは、男女共学校の生徒達の姿が見える。やはり、女子の目があるからか男達もお洒落であるように見える。もちろん、女の子達は眩いほどかがやいている。
「しかし、タモツさんには……」と軽く口にしてしまってから俺の目は驚きで見開いてしまった。数人の男女の中に見慣れた顔が見えた。それは、俺の知っているタモツの顔に間違いなかった。俺の目の前に、学校へ向かう電車が到着する、慌てて車両に飛び乗り乗客を掻き分けて反対側のドアへ駆け寄る。より近くで彼女の顔を確認する為であった。
制服に身を包み、屈託のない微笑みを見せる。肩までの髪、白い肌、間違いなかった。その少女はタモツであった。
俺は目を見開いたまま、彼女を見つめる。彼女も何かしらの視線を感じたのか俺の方を見て一瞬驚いた顔をした。そして、他人行儀な会釈を軽くしてから、俯いた。それを合図にするかのように俺の乗る電車は、発車した。
「なんで……、いるんだ。あんな所に……。退院したなんて……」俺の頭の中は軽くパニックになった。そういえば、朝も軽い挨拶のメッセージを交わしたが、そのような事には触れていなかった。
俺はスマホを取り出して、メッセージを入力する。
『今、電車に乗ってなかった?俺の事、見たよね?」バニクッた頭では、文章もどこかおかしい。俺の送信したメッセージはすぐに既読になったが、しばらくの間、彼女からの返信は送られてこなかった。
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