音をたてる岩戸

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   長老が鉄製のコップをかかげる。 「女神様のご帰還とご復活、そしてヤクルの未来に!」 『乾杯!』  アリエの果実ジュースを喉に流し込んだ。 「ぷはぁ!」 「美味しいっすね」 「お祭りって、豊穣の神事とかだけじゃなく、こういう楽しいイベントもあるんじゃなあ」  ツァナが感心しつつ、きょろきょろ周囲に興味を示していた。  いよいよ祭りが始まったのである。  楽しむのみ……! 「主君、お店を回りましょう!」 「うん」  カイリュウたち幹部はそれぞれ好きに店を出したりしているらしいが、竜双子は私と一緒に祭りを回りたいらしい。  プラスいつものメンツで、ずらりと並ぶ出店屋台を回ろう。 「どの店から行こうか?」  乾杯が済み、店の方に人が流れている。  とりあえず、流れに乗ってみるか。  いろんな店があるねー。  どうやら、森の外から来た人も結構いるみたい。、  楽しんでほしいものだ。  そうなれば、大きな金が動……いや、今は純粋に楽しもう。 「ソルナちゃん! その浴衣ってやつ、可愛い! すっごく可愛い、結婚して!」 「やだ」 「お祭りデートしようソルナちゃん!」 「断る」  ラウザンもすっかり復活したみたいだ。 「しかしこれ、私たちも貰っちゃって良かったんっすか?」 「大丈夫だって」  エンジュがつくってくれた浴衣を、女子三人は身に着けていた。  ご友人にも是非と言って渡してくれたので、着てくれてよかった。 「似合ってるよファレア」 「馬子にも衣装ってやつやな」  おっと、いつものメンツと、ダサ男もいたよ。  ファレアがわらじでダサ男の足を踏んづける。 「痛っ! 何すんねん!」 「チッ。威力は低いんっすね」 「いや、武具じゃないので……」  お洒落に打撃力を求めないでほしい。  一本下駄とかなら痛いかも。 「ソルナ、あれなんじゃ?」 「ん?」  ツァナが指さした先を見る。  き、や、こ、た……あ、たこやき?  屋台の文字ってつい、反対側から読んじゃうよね。 「あれ、ウサナ? たこ焼き屋さんやってるの?」 「女神様っ! はい、アリエさんのところでの修行の成果を試そうと思ったので」  鉢巻を巻いたウサナが嬉しそうに答える。  うむ、こういう精力的な若者がいるから、ヤクルの食べ物は美味しいんだよね。  アリエよ、弟子育成に是非とも励んでくれたまえ。 「よければ、女神様とご友人方もいかがですか?」  せっかくだからいただこう。  いろんな店を回るし、いくつか買ってみんなで分けようか。 「じゃあ、三つお願いします」 「かしこまりました!」  みんなでたこやきをつまみつつ、再び歩き出す。 「くふふ……このたこ焼きとやら、肉ほどではないがそこそこであるな……」 「おい世間知らず馬鹿、もう一個よこせ」 「は? もう自分の分食っただろ」 「だから、世間知らず馬鹿の分をよこせと言っているんじゃないか」 「ふざけんな」  好評なようでよかったが、キッドとナーティさんは他人から奪う癖をどうにかしようよ。  主君の食べ物を奪うなど、とキッドを威嚇するケイトとリヒトを宥め、しょうがないので一個あげた。  私はまた食べられるし。ここはお客人に一歩譲ってもいいかとね。  その後からあげや焼きコルネル(とうもろこし)、わらびもちなどを食べたのだが、それもみんなや冒険者たちに気に入ってもらえたようだった。  驚いたのはポテチの屋台があったこと。  カトメイモ(ジャガイモ)を薄く切って塩で味付けしたものらしい。  どうもティオ発案で料理好きのフレアニャーガに頼み込んで作ってもらったらしい。それから定期的にそのフレアニャーガのもとにティオが入り浸っているとか。  アリエに頼めばコンソメとかのりしおも再現できるかなぁ。  店を出しているのはそのフレアニャーガだったのだが、彼女はアリエの弟子であるウサコに料理を教わったらしい。  お腹も膨れて来たことだし、何か遊べる屋台ないかなー。  あ、福袋釣り発見! 「お、ソルナじゃん」 「やっほー、ティオにギンソウ」  二台並んだ福袋釣りの屋台に二人を見つける。  さすがティオ、「夏祭りと言えば」を再現してくれた。 「なんで二つあるの?」 「右はおもちゃなんかが入った子供用。で、左はうちで作った武器……といっても失敗作がほとんどだけど、それが入った冒険者用、みたいな?」  なるほど、ターゲットが違うんだね。  どおりで左の屋台、冒険者で賑わってるわけだ。  てか、武器の入った福袋とか重そう。 「見ろ、Eランクだ! E+ランクだぁっ!」 「おぉお!」 「Dランク冒険者がもってるような装備じゃねぇか!」 「すげぇっ」 「う、うわぁああ! Dランクが! D-ランクだぁ!」  ……私の装備(刀の十六夜ね)、Aランクだとか言えねえな。 「……ほう、面白そうだな」  ルードスさんが呟く。  あー、いくつか剣持ってるもんね。  どうやらルードスさんは、相手によって剣を変えて戦うらしい。普段はお父さんからもらった「ソードコレクト」っていう剣専用の魔納袋みたいのに収納している、。  剣士によっては自分にとても相性のいい剣一本で戦う人もいるらしいが、ルードスさんみたいに戦い方に幅がある方がバランス亥がよく、安定するという。  この年で幅のある戦い方できるいとか、ルードスさんすごいっす。 「オレの剣はFからE-ランクがほとんどだから、ここで賭けてみてもいいかもしれないな」 「僕もそろそろ、二本目の剣を持とうと思っていたところだ。ちょうどいいな!」  ルードスさんとキッドが乗り気だ。 「一回頼む」 「僕もだ!」  あらイケメン、とティオが一瞬乙女になるが、ふるふると首を振り、困ったように眉をハの字にした。  おっと失言。本人いわく常に乙女だった。 「冒険者をターゲットにしてるから価格設定が高めだけど、大丈夫?」 「いくらになる?」 「えっと、一回で一万イェル。正直、祭りの屋台じゃ割高では済まないと思うけど」  確かに見たところ、相場が100から300イェルくらいだからね。 「何、ヤクルの品は質が良いとオレ自身思っているし、それがたった一万イェルで狙えるなら十分安い」 「一万で値を上げるなんて、まあ庶民の感覚だな!」  そういう君は王子様の感覚でしょう。  このボンボンめ。
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