音をたてる岩戸

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 と、キッドがぬぬぬと唸った。 「王子である僕よりレアな武器出すとかうらやま……いや、生意気だなルードス。僕だってレアな武器当ててやるから、見てろ!」  それは王子がどうのこうのは関係ないと思うんだが……。  やっきになったキッドには付き合っていられないので、放置してきた。  ……ん?  なんかがやがやしてる。  気になるな。 「みんな、ちょっと先行っといて」 「ふむ、良かろう……」 「俺も行く」 「えっ、じゃ、じゃあ僕も」 「リヒトくん、二人もいたら邪魔じゃないかな」 「そんなっ」  というやりとりが為されて、結局ケイトがついて来てくれた。  かなりの人垣ができている。  これ通れるかな。  中の方から言い争うような声が聞こえるんだよね。喧嘩とかだったらはやめに止めたい。 「ごめん、ちょっと通ってもいいかな?」 「こ、これは姫! 失礼いたしました!」  手前にいたフレアニャーガらしき住民に声をかけると、道を開けてくれた。 「ひ、姫!」 「皆、道を開けろ!」 「姫がお通りになるぞ」  人垣がザッと割れる。  私はモーゼですか?  ありがたいけど恥ずかしいです。マジで。 「む? 貴様、何用か? 余は今、小娘にかまっている暇はない。とっとと消えろ」  人垣の中心にいた人物がそう言う。  その人物に視線を向け、私はめを瞬かせた。  立派な角。目立つ犬歯。  毛で覆われた耳。手は肉球、足は蹄。  鹿と狼をたして二で割って、人間の体のパーツをちょっとずつつけかえたような……そうとしか形容しかねるバケモノだった。  そいつが流暢に喋っているのだから、余計に気味が悪い。  ってイヤイヤ、人は見かけで判断しちゃいけない。  既に人なのか怪しいけど。  と、ケイトが無表情でバケモノ……シカオオカミさんに近づいた。  お? これは嫌な予感がするぞ? 「とっとと消えろ……? それはこっちの台詞だ。主に対してそんな無礼極まりない言葉を吐く馬も鹿もいらない」  そこでいちいち分解して鹿を出すあたり、よほど見ためのインパクトが強いと見える。  というか、野次馬の皆様方も深くうなずいているのはどうして?  頼むから違和感をもってくれ。意識改革必須か。 「ふ、生意気な小僧だ。しかしそれも若さ。余に向かってこられるとは、大した根性だ」 「お前が誰かはどうでもいい。主に謝れ」 「ふはは、面白い冗談だ」 「冗談は言ってない」 「悪いな小僧。余は立場上、小娘に頭は下げられんのだよ」  立場?  ひっかかる。 「なら、力づくで下げさせる」 「それは面白、」  ケイトが消えた。  ぱしっ  そう思った次の瞬間には、ケイトの拳がシカオオカミさんの肉球で止められていた。  えええ、絶対吹っ飛ぶと思ったのに!  ケイトも最近は少しずつ手加減を覚えて来たから、もちろん怪我させないようにって気を使ったんだろうけど。でも、古代竜のパンチを止めるとか只者じゃなくない!? 「……ふうん」  ケイトが一歩下がる。 「なかなかの威力ではないか。しかし余は一度、進化を経験しているからな」  へえ。  てことは、かなりレベルを上げて来たってことだよね。  とすると、この見た目、元からではない?  頑張ってレベルあげて、進化したときこんな見た目になってたら、どんな気持ちだったんだろう。  あれ、ケイトの目が変わった。 「じゃあ、ちょっと強めにやっても壊れないってことか」  え、ちょっと待っ、  口にする前に、ケイトが地を蹴る。   ドゴッ! 「でゅぼぉおおー!?」  たーまやー。  綺麗な回し蹴りが決まった。  夕空にシカオオカミさんが打ちあがっ……ん?  シカオオカミさんの軌道に、空を飛んでいた黒い影が重なった。  なんだろあの影……野生の魔物かな? あれ、でもシルエットは女の人。  あ、何か魔法使った。  風系統の魔法らしく、シカオオカミさんが空中でぐるぐる回りながらとんできた。 「……ぅおえ……」  酔ってる。 「きゃあ!」   ズドッ  続いて女の人も同じルートで落ちて来た。  えーと、何故? 状況説明プリーズ。  と、ふわりと風が吹いて一人の男が上空から降り立った。  そっちに視線を移すと……って、 「マキア!?」 「これはこれは、ご主人様! 曲者がいないかと見回っておりました。ご褒美を所望いたします」 「何かね。事と次第によっちゃあきいてやるが」 「ふ、うふふ! ではまず……」 「やっぱり却下」  ヤバい臭いがプンプンする。  シカオオカミさんの横で倒れていた女性が起き上がる。  おわ、仕草がいちいち婀娜っぽい。  振り返った女性は、文句なしの妖艶な美女だった。  抜群すぎるスタイルがよくわかる薄い生地の服を纏い、長い髪を払った彼女は紛れもなく美女そのもの。  同じ女子として憧れるね。 「なぜですの? マキア様。私は命令に従って……」 「ティタニア。あなたが今魔法で吹き飛ばした方が、もしかするとご主人様のお客人だったかもしれないのですよ」 「ちょっと待ってマキア!? その女の人知り合い!?」  悲し気に目を伏せる彼女はティタニアさんという名前らしい。 「はい、ご主人様」 「うぉおおぉおい!? え、彼女!? リア充か貴様リア充だったのか!?」  お似合いすぎて怖いんだけど!? 「いえ、彼女は僕の眷属です。精霊は生命力を使って自らの眷属である妖精をつくることができるのです」 「あ、はい……」  一人で盛り上がった私馬鹿みてぇ。 「ご心配なく、ご主人様。僕の忠誠と(敬)愛はすべてご主人様唯お一人のために」 「ごめんけど、それはそれでちょっと」  心なしか嬉しそうに申し訳ありません、と礼をするマキア。  コイツ、いろんな意味で大丈夫かな。 「姫。私はマキア様の眷属にして配下の者です。種族はティタニア。扱うのはマキア様と同じく、嵐と……男であれば精神を少々」  ですよねー。 「どうかお見知りおきくださいませ」 「あ、うん。よろしく、ティタニアさん」 「あら。……ふふふ、はい。よろしくお願いいたします」  うん?  ティタニアさんが大きな目をさらに大きくしたかと思えば、意味深に笑って礼をした。  ま、待て待て。これは絶対に何かある。 「名前をつけてくださったのですね、ありがとうございます」 「え?」  そ、そんなもの覚えがないが……。 〈 ティタニア Lv.23 〉  しまった、種族名を呼んだつもりだったのに名前カウントされてるじゃん! 「す、すみません!」 「何を謝っておいでで? 私は嬉しいですよ。ありがとうございます」  うう、感謝されてしまった。  しかし、種族がティタニアってどういうことだ? 〈 ティタニア Lv.23 〉  種族 妖精女王(ティタニア)  属性 精霊  ランク c-  HP 5264/5321  MP 3860/3995  GP 152    攻 4101  防 2317  速 4236  持 3681  スキル 「精霊魔法」「魅了」「指揮」「周囲把握」「格闘技」「毒耐性」「聖耐性」「人情変化」「酩酊吐息」「誘惑」「無力化」  称号 「従者」「妖精女王」「使い魔」「惑わす者」 『妖精女王(ティタニア) ランク C-    大精霊に生み出された、強力な妖精。女性しか存在しない。  大精霊の能力をある程度受け継ぐ。  中位精霊以上の力を有している。  妖精女王の中で一定基準を満たした個体には、称号「妖精女王(ティタニア)」が与えられる。  』  あ、はい、理解。  また変なの来たね。 「ほら言ったでしょう、ティタニア。ご主人様は素晴らしいお方だと」 「ええ。……ただ、ここまでマキア様を溺れさせるとは、少々悔しいですね」  そう言ってティタニアさんが笑みを深くした。  絵になるどころの話ではない。
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