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アリエの食堂に到着。
「おぉっ、殿!」
「女神様!」
あつまっていた幹部たちが私に気づく。
「みんなお疲れ様。個人の感想になるけど、とっても楽しかった。ありがとう」
「姫にそういって頂けるとは光栄ですね、ぬはは!」
一人一人話をしに行って少し落ち着くと、マキアが口を開いた。
「皆さま、お楽しみのところ申し訳ございません。皆さまの疲労が少しでも癒えれば、少しでも楽しんでいただければと、サラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノーム、トゥクイ、ジャシパーノ、そしてこのマキアより差し入れをご用意いたしました。ティタニア」
あ、さっき言ってた、ティタニアさんが持ってきてくれたってやつか。
「は」
「パーノ様もいるぜィ!」
「俺様もだぜ!」
三人がどす、と床に置いたのは、
……酒樽……?
「精霊酒よ。口に合うかはわからないけれど」
「まだまだいっぱいあるからね、ねえ!」
精霊酒、というワードにざわつく。
森羅万象を発動、んでもって鑑定!
『精霊酒 価値 C-
精霊神の魔力と世界樹の生み出す大気によってつくられる、極上の酒。
特殊な魔力により体への悪影響が少ない。
初めての精霊との契約の際、精霊国セントリアではこの酒を杯に一杯注いで飲むという文化がある。
入手できるのは大精霊や上位精霊のみ。
エルフの女王は大精霊を介して入手する。
自然の力の雫ともいえる、非常に貴重な品。 』
な……なるほど。
非常に貴重な品が、こんなにあっていいものなの?
うーん……まあいいか。
せっかく持ってきてくれたし、お言葉に甘えよう。
……てか、私おもくそ未成年じゃねーか!
あ、いや、体の年齢は十五歳くらいなんだが。
こっちじゃ十五歳からが成人だ。
……やめとこ。実年齢が八歳であることに変わりはないし。
「不思議なにおいがする」
「ですね」
ケイトとリヒトが自分のコップに入れてもらった精霊酒の匂いをすんすんと確かめる。
そっか、二人とも十五歳だもんね。
「ごめんマキア、年齢的にお酒はちょっと……」
「そうだったのですか……思慮が浅く、申し訳ございません」
「大丈夫、私は私で何か飲んでおくから」
果物のジュースでも飲もうかとアリエに声をかけ、ハイレモナのジュースを貰う。
ん? 肩を誰かに叩かれた。
「主、長老が乾杯の合図やって、って言ってる」
うぇ、私!?
お疲れさまの会で、遊んでた私がそんな大役など……。
と思うも、長老に押し切られてしまう。
「え、えっと……ありがとう。んで、お疲れ様でした! 乾杯!」
『乾杯!』
こんなのでよかったんだろうか!?
緊張と火照りを流す勢いで飲み物を一気に流し込む。
ぷはぁ、おいしー!
乾杯前の一瞬静寂が下りたが、再びガヤガヤと音が戻ってきた。
「さあさあさあ! この私アリエの料理もたっくさん食べてね!」
アリエとウサコが料理を並べる。
うわぁあ、全部おいしそう!
「主さま、主さま!」
マリィとネリィが同じく果実のジュースを持ってかけてきた。
もう一度乾杯をとせがまれたので、かちん、とコップをぶつける。
「えへへ、かんぱーい!」
「楽しいね、マリィ」
「うん!」
マリィとネリィと一緒に食べ物をとりに机へ。
どれもこれもおいしそうだ。
どれを食べようか悩むな……。
うーん、まずはこれにしよう。ドルドドルの焼き鳥!
あ、そうだ。ケイトたちにもいくらか持って行ってあげよう。
マリィとネリィが手伝ってくれ、料理を皿にのせて戻ってみると、竜双子とマキアが話していた。
「お口に合いますでしょうか、精霊酒は」
「……まだ飲んでない」
「なかなか勇気がいりますね……」
竜双子はジッと水面を見つめていた。
ところで、カイリュウはどこに行ったんだろ?
「いやぁ、相変わらずですなぁ!」
「アんたもそうだろう、以前のままだ。ナあ、エンマ」
「いやっはっはは、そのとおりだ」
「しかしですな、ランビとて昔から……」
幼馴染二人と昔話に花を咲かせているらしい。
楽しそうな様子に、思わず表情がほころぶ。
と、そうだった。持ってきた料理が冷めてしまう。
「話し中ごめんよ、焼き鳥持ってきたからよかったら一緒に食べない?」
「主!」
「主君!」
ぱっと表情を輝かせた二人。
対照的に、マキアは青ざめる。
「ぼ、僕が行けばご主人様のお手を煩わせるようなことは……くっ、ご主人様! どうか僕に、反省に足る痛みをお与えください!」
「断る」
折角だから楽しめばいいのに。
「はい焼き鳥。いる?」
「あぁなんて寛大なお心……その海より広い器に溺れてしまいそうです。……そういえば、溺れてみるのも新たな快感に繋がるかもしれませんね……」
恭しいてつきで丁寧に受け取るマキア。大仰な……。
「一生大切にいたします、ご主人様」
「傷むから今すぐ食え」
精霊って基本、寿命ないんじゃないっけ?
授業で習った気がする。
生命力の枯渇が死になるから、個体によってバラバラなんだとか。
とするとコイツ、一体何万年おいとくつもりだ?
土に還るっつーの。
「マキアさん、これ美味しいんですか?」
これ? ああ、精霊酒のことか。
「ええ、もっとも、個々の好みはあるでしょうが」
「ま、ガキはあんまし飲まねェ方がいいぜィ。介抱してくれるおっ母さんもいねェことだしよォ」
「む」
ひょっこり顔を出したパニーが揶揄うと、二人は眉をハネた。
「そんなことありませんよ、ガキじゃないですし!」
「右に同じ」
「ほーォ、そンならオレサマと勝負してみるか?」
パニーがマキアの肩に手を置き、マキアは煩わしそうにそれを払った。
「受けて立つ」
「望むところです」
「無理すんなよォ、ハハハ!」
本当に無理しないほうがいいと思うんだけど。
でお二人は説得しても聞きそうにない。
「ほどほどでやめときなよ」
「分かった」
「もちろんですよ」
そこはかとなく不安だ。
「じゃあ、景気よく一杯目といこうぜィ」
三人が一気に精霊酒をあおった。
と、ケイトが噎せる。
一方で、リヒトはごくごくとコップ一杯を飲み干した。
「ぶはっ!」
「リヒト、だ、大丈夫……?」
リヒトはかくっと首を傾げ、笑顔を浮かべた。
かわいい。いやそうじゃなくて。
「大丈夫ですよ主君……ちょっと頭がふわふわしてきましたけど」
それは大丈夫じゃないやつ。
「ハハハッ、その意気だぜィ」
「二杯目ですね!」
これもやはり一気に飲み干す。
だ、大丈夫だろうか。
「ソルナ、ソルナ」
肩を軽く叩かれて振り向くと、トゥクイとウンディーネ、ティタニアがニコリと笑った。
「少し、少し、女の子同士でお話しましょうよ」
「殿方に、殿方に逃げられてこんなことになりましたの?」
「そ、そうなるかな」
改めて言葉にすると情けないな、我ながら……。
「うふふ、ソルナも女の子なのね」
ティタニアが微笑む。
マキアの前や仕事モードでは敬語だが、通常のときは対等なため口でお願いしますと懇願したのである。
こんなきれいなお姉さんに敬語なんぞ使われようものなら、同性だろうと心がもたない。
ため口の破壊力もすごかったけど。
「いや別に、神様とは何もないんだけど」
「照れなくても、照れなくてもいいのですよ」
トゥクイが、ねぇ、と他の二人に同意を求める。
絶対何か誤解されてる。
「しかしソルナ、ここでは伴侶も選び放題ではなくて?」
「ええ、ええ、格好良くて素敵な殿方がいっぱいいますものね」
完全に女子会における恋バナのノリで、三人がぐいぐい来る。
「ソルナ、正直にお言いなさい」
「この中で、この中で伴侶として一番アリなのはどなた?」
えー、伴侶ですと?
顔はいいけど滅茶苦茶な奴とか、顔は良いけどヤバい奴とか、顔はいいけど残念な奴とかが溢れてるこの中で?
む、難しい。
ケイトは目を離すと無礼な物言いの人は権力者だろうがなんだろうがぶっとばすし。
リヒトは空気を読まない発言で場の雰囲気を凍らせるし。
カイリュウはお調子に乗っていらんことをしでかすし。
マキアは……あれは論外。
警備代表のエンマは既婚。
ぬらりひょんはいつ腐蝕爪がとんでくるかわからないし。
レイは伴侶というよりワンコかな。可愛い、癒しのふわふわワンコ。
ギンソウは気が利くけど、メタルドラゴンの住む環境、つまり鉱山に順応できる自信はちょっと私にはない。
回復玉の開発をしてる木竜のリョクとかなら、穏やかで優しいし、候補として大アリ、かな?
ただしリョクにしてもカイリュウにしても外務代表のランビにしても、そのへんの世代は年の差も年の差。
マキアとかもはや歴史レベルで違うからね。
「強いて言うなら、リョクとか……かな? いやでも、分からん」
「まあ、ソルナってば贅沢な」
ティタニアが残念そうにそう言って精霊酒を一口飲んだ。
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